読む前にあたって・・・

 どうも、白面黒衣のクラシック&スタイリッシュ暗殺者こと真アサシンです。
 本作品は秋葉VS臓硯SS「鬼蟲」のアナザーストーリーとなっておりますので未読の方はお手数ですが先にそちらをお読みください。
 ―――中東広告機構『ダメ!暗殺!絶対!』

 以下本編です



 夜闇に飛ぶ鋭刃。
 闇色に沈む空と同色の刀身は、必殺と謳われた暗殺の業。
 月光に隠れ、夜に紛れ、風切り音さえ後に残した魔速の飛刀。

 グスッ

 肉を抉り、筋繊維を切断する痛音と骨を砕いた濁音とが少女の頭に(とど)く。

 「ああ―――うっ」

 細いうめきとともに少女の右腕から力が失われ、いまだ残火がくすぶる老人だった燃え屑が落ちる。
 白い服は鮮血に染まり、大粒の汗を額に溜めて、少女は力無く地面にくず折れた。
 ・・・被弾箇所は左肩口。貫いた黒い切先が血の(ぬめ)りで輝いている。

 「く―――あぁっ」

 傷口を確認しようと伸ばした細指が刃に触れただけで全身を痺れさせるような痛みが走る。当然だ。傷は完全に動脈を裂いている。急ぎ止血をしなければ命が危うい。

 「く・・・誰・・・が・・・?」

 だが、苛む傷みよりも得体の知れない襲撃者の方が気に掛かる。少女は傷みを呪い、不覚を悔やむよりも生存を優先させるだけの冷静さを辛うじて保っていた。

 「・・・にいさ・・・」

 しかし、最後に囁いたのは少女の甘えだ。それは縋る声か、泣き声か・・・いずれ(あやかし)の少女とは思えぬ弱々しい響きであった。


 髑髏の月、穿つ白月―前編―


 「・・・・・・おのれ」

 暗い森の月光夜。佇む髑髏面の奥から憤怒の囁きが漏れた。
 公園の広場・・・いや、焦土の跡となった荒れ野に膝折る少女。それを望む木立の上、暗殺者は失態に憤っていた。
 そう、失敗である。
 肩口を抉った凶刃。溢れだし、地に染み込む赤い流れ。白い肌を蒼白に染め上げて、弱々しい呼気で震える獲物。それを成しても。いや、それを成してさえ・・・

 ―――その行為は必殺ではなかった。

 それが暗殺者の失態。
 あらゆる手段を持って、あらゆる過程をえて、されど終着は殺害でなければならない彼の行為を妨げた者がいるのだ。
 それが憤怒の理由。
 その妨害者を排さぬ限り獲物へのとどめを刺せぬ。決着に至らなかったその不覚こそ彼の怒り。

 あの投刃の際、アサシンに向かい放たれた刃があった。
 新手か、伏兵か・・・それは解らないが、常ならぬ失態はその投刃のためだ。
 当たりはしない。この男に死角は無い。ただ、正体不明の飛刀に対する僅かな動揺。その刹那の逡巡こそが暗殺者の手を動じさせたのだ。
 結果は不中(アタラズ)。暗殺者は臍を噛んだ。
 当然、己が背後を取られた事が有り得ない事ならば、投擲の瞬間に心揺らす事など有り得てはならない屈辱だった。

 的を外す。その誤作動は幾ぶりであったか・・・
 あらゆる状況下で精度を保つ為に行われた訓練。砂地に足を取られながら、星明りすら沈んだ夜の闇、強風吹きすさぶ嵐の中、10日の絶食を超えて・・・あらゆる状況下で必中を求められた過日の業。果ては火中での敢行、7日のあいだ指一つ動かさぬ潜伏からの一瞬の凶行まで・・・その全てを完遂した人中の魔技と不揺の精神。
 矜持でも誓約でもない。おそらくは、そう在り続ける事が男の生であり、存在の理由であったからだ。その人生を表す言葉は必殺。
 ・・・それを破りし慮外の飛剣。暗殺者の胸中いかほどか・・・

 そしてなによりも、投げ放たれた短剣はアサシン自身の投擲短剣(得物)であった。
 おそらくは他の刺客を始末した時に、回収しそこなった一振りであろう事は容易に推測できる。
 仮面の暗殺者は仮面(それ)ゆえに眉一つ動かさずその事実を受け入れる。
 しかし、己が凶器を利用されたという事態は暗殺者にとって屈辱を通り越して冒涜に等しい失態だ。
 2重の苦渋・・・許されざる汚名。
 アサシンは誓う。討ち漏らしだろうと新手だろうとかまいはしない。
 この乱入者―――生きては帰さぬ、と・・・

 ―――スゥ
 暗殺者の姿が樹上から消えた。
 実際には物音一つたてていない。だが、夜闇に溶けこむ姿は水底に沈み消えた月影の如き韻を踏んでいた。
 つづいて
 ――――――ヒュッ・・・ヒュヒュッ・・・キィンッ
 夜を裂く3つの風きり音と火花が一つ。

 「・・・落としたか」
 暗殺者の声が低く流れる。
 的中一、外れ一、弾き一・・・小手調べの三連射で読めた事は相手の技量が恐れるほどで無いと言う事だ。

 まず、先の狙撃位置から移動していない愚昧さ。ゆえにアサシンは乱入者の姿を探す必要も無く、反撃は即座に行われた。
 次いで性能だが・・・一つを弾き落としたとはいえ、残る一つがその肩口を裂いている。さらに、先の投擲剣も技術的には稚拙なものだった事から、敵に長距離射程の得物はないと判断できる。
 暗中の交差。ただ一手の間にアサシンは距離にして10間は離れた敵の戦力を正確に分析していた。
 問題は無い。排除するに苦になる敵に在らず。のち三手で決め手とする。それがアサシンの結論だった。だが・・・

 「しかし・・・」

 とアサシンは反問する。
 暗殺者の研ぎ澄まされた夜目は暗中にあって遠目の敵が持つ得物を確認していた。それは見えた限りでは3寸ばかりの懐剣。本来、高速で飛来する刃を防ぐ道具でもなければ防げる得物でもない。にもかかわらずアサシンの投擲短剣(ダーク)を弾いた。
 くわえて、先の奇襲の際、いくら獲物(少女)への攻撃に気を取られていたとは言えアサシンに気取られる事なく間合いに入った技量。

 「・・・侮り難し・・・か」

 しかし、だとしてもアサシンの優位は揺るがない。投剣の間合いにおいてアサシンに二度の不覚は無い。
 相手の反撃を許さぬ間合いから確実に息の根を止める。それがアサシンの戦法だ。

 再び夜の林に飛ぶ髑髏面。さらなる黒刃が3射。高速の弾丸のように放たれる。
 夜闇の中、狙われた獲物が逃げ惑う。
 放たれた凶器は二投が外れ、一投が太腿を掠めた。

 「・・・勘が良いな」

 完全に死角から狙ったにもかかわらず敏応する獲物に暗殺者の口から賞賛がもれる。
 だが夜に霞む黒マントに手心は無い。風に舞う木の葉のような黒衣からはさらなる凶刃が三連。
 第三波の放射は全て外れた。しかし、ここに来て獲物の足は逃げた先で泥濘(ぬかるみ)に捕らえられていた。
 偶然ではない。その瞬間はアサシンによって作られた必然。
 獲物を追いたて、逃げ場を失わせるは狩人の定石。
 間髪入れず撃ち込まれるアサシンの第四手。必殺を誇る男の、ソレが決め手だった。
 眉間、喉、鳩尾、正中線に三連急所。
 足場の不覚と言う絶対の間隙。嫌が応にも意識を足元に向けなければならない完全な死に体。
 絶対不可避。穿つ三急所は()る事すら許さない。しかし・・・

 ―――バッ

 翻ったコート。予め脱衣していた上着を防壁に、獲物は必殺の三連を凌いでいた。
 そして、ジャケットに絡め取られた三本の凶器は軌道を外れ、上着を撒き込んだまま後方に飛んで消えた。
 無論、獲物は無傷である。この獲物は1度ならず2度までも必殺の名を貶めたと言えるのか・・・

 「――――――詰みだ」

 答えは否である。髑髏面の発したその言葉が雄弁に語る。その必殺の真髄を・・・
 眉間を狙ったのは第一射。喉を狙ったは第二射。第三射は鳩尾。そして、

 ――――――第四射こそ心の蔵へと(はし)る真なる必殺!!

 これまでの3手、全てが三連撃。されど、ここにきて奇襲四連。
 アサシンの射刀は、今が秘刀のために築かれた布石。

 一拍置いて飛来した凶刃は、上着を翻した姿勢のまま無防備となったその胸にすでに肉薄していた。

 弾ける音。混ざり合う闇。交錯した生死。・・・灯ったのは蒼き魔眼。

 確実な勝利。必ず殺したその獲物・・・
 アサシンはその刹那に・・・青い鬼火を見た。

 ガツッ・・・鈍い音をたてて鋼が地に落ちる。剛性と靭性・・・ともに逸品なる鋼刃が断面も滑らかに二片に割れて落ちたのだ。
 裂いたのは三寸の白刃。成したのは双眸に輝く・・・深い蒼。
 暗殺者と対峙したのはいったい何者であったのか・・・

 「――――――いいぜ、殺し合おう」

 死神の声が、その在り方を告げていた。

 ○ ▽ □

 時はさかのぼり―――遠野志貴が新都の駅を降りたのは終電の時刻であった。

 「・・・さて、どうしたものか」

 冷えた夜闇に白い溜め息が漏れる。
 溜め息は青年の癖、ないし日課とも言えるお馴染みのものだが、今日ばかりは常ならぬ陰気をこもらしていた。
 遠野志貴には目的が有る。そのためには見つけなくてはならない人物がいた。

 「アキラちゃんの話だと、そこまでは分からないんだよな」

 後輩の言葉を信じてここまで来た志貴も、そればかりは他人を頼れない。
 それは妹の秋葉の探索だ。彼女には死が予見された。その死を回避させるのが兄、遠野志貴の目的である。
 家中の者に聞いても分からなかった妹の連絡先と行き先は、彼女の手記よりの推察である。
 時代がかった文と古い字で書かれる固有名詞などに悪戦苦闘しながらも、彼女が冬木と言う土地で、とある人物と接見している事が読み取れた。

 余談だが、その手記の内容に志貴は、知られてはならない、幾つかの秘密がすでに妹の聞き及ぶ事となっている事と、知ってはならない・・・と言うよりも知らなければ良かった未来とに戦慄したが、それは火急の事ゆえ(泣く泣く)黙殺した。
 ・・・とにかく志貴は彼女の足取りを追い、この冬木の地にと訪れていた。

 結局、連絡はつかなかった。秘匿を旨とする遠野は元来、電信を嫌い、その風習は族儀のとき顕著に表れた。今、族長として大儀に掛かる妹には通常の手段では連絡の取り様が無かったのだ。それは家中の者も例外なく、話は取り合われず。一族とはすでに絶縁状態の志貴ではなおの事であった。
 ゆえに、この広い冬木。志貴は宛てもなく妹の姿を捜すよりない。

 ―――しかし、意外にもその場所は早々に見つかる。

 「・・・公園・・・か?」
 目で見ただけならば木々が茂るその園内。肌で感じれば総毛立つ魔界。
 常人ならば気付かぬほどに霞れたその瘴気は、気付いてみればたちどころに戦慄する魔気だ。希薄と禁忌と畏恐。それらが等しく役割を果たし、このビル街の直中で異常を隔離している。
 だが、志貴はそんな異常地帯に一つだけ確信できる事があった。捜し人は間違い無くこの中にいる。
 青年の背中は、迷う事無く木々の闇に消えていった。


 林の中には一つの死体があった。
 漆黒の柄を頭から生やした死体。
 その死体。顔は知らなかったが、彼の妹の一族だと言う事は用意に推察できる出で立ちだった。
 つまり、殺害者は己の敵である。
 志貴は躊躇いながらも短剣を引き抜いて検分する。引き抜かれた刃はやはり漆黒。その(くろがね)が血に濡れている。

 「投げナイフか?」

 見た事のないナイフだったが、握り具合から投擲用の物だと思われた。
 そして死体が語るのは襲撃者の隠密性だ。
 額をきれいに貫かれた死体の傷は即死であった事がわかると同時に、その死の間際に凶器に対して反応できていない事を示している。
 投擲剣の間合いはせいぜい5〜15m程度。知人にその筋の達人がいるが、彼女ですら20mを超えた標的には命中精度が落ちる。
 さらに、投擲武器の特徴として挙動(モーション)が分かり易い事だ。たしかに手を放たれた投擲剣は人間の動体視力を凌駕する速度だが、撃たれる間際の使い手の動きを見る事で対応は可能なはずだ。
 そう、もし正対した相手に投げるのなら、手をかざす、横に避けるなどの反射のせいで狙い通りの場所に的中するのは難しい。
 そして、死体には二度刺しや拘束の跡などは見て取れない。睡眠、幻覚などの状態だったならば分からないが、少なくともこの死体は敵の攻撃を気付く間もなく殺害された事がわかる。
 以上の事から少なくともこの場に投擲剣と隠密技術が卓越した者がいると判断できる。
 「・・・まいったな」
 志貴は、ごく自然と眼鏡を外し、ポケットへと手を伸ばしていた。


 そして、雑木林の終わり、公園の中心である広場に出るころ、状況は予断を許さぬものになっていた。
 真っ赤な炎が立ち上がる焔獄。燃え散らされる虫たちが灰となり天上に舞い、魂魄と成り昇天昇華に霞んでいく。
 その直中、渦巻きうねり猛々しい炎陣の中央に捜し人の姿があった。
 「・・・・・・ッ」
 名を叫びかけた口を塞ぐ。
 赤い渦の中、炎上する黒炭を掌で高々と掲げ、大地を焼いている鬼神こそ遠野秋葉だ。
 ドクンッ・・・鼓動が高鳴る。
 止めなくてはならない。彼女を・・・秋葉をアレにしてはならないと、強く理性が叫ぶ。
 同時に本能が猛る。ヤツを・・・あの■を■さなければならないッ
 その感情(全て)を抑えつけて彼の意思が焦る・・・秋葉を守らなければならないッ

 意志か幸運か・・・彼はこの刹那の中で、明確に死の気配を嗅ぎ取った。
 広場に面する木立の中・・・何の変哲もない一本の枯れ木の上に・・・

 ―――黒衣の亡霊はいた。

 気付けば掌にはさきほどの黒刃が握られ、瞳は突き刺さるほどにその黒衣(かげ)を凝視している。
 そして状況は切迫。あらゆる思考を置き去りに、反射こそが次ぎの手を紡いだ。

 目一杯の力投ッ!!
 外された弾道・・・

 驚愕はその場にいた全ての者に共通した。
 肩を抉られた少女の驚き。
 己が間合いに踏みこまれた暗殺者の不覚。
 凶刃に倒れた妹への兄の焦燥。

 暗がりの遠目からでも出血の量が尋常でない事がわかる。

 「―――秋葉ッ!!」

 吼える様に叫んだ口とは対照的に、志貴の体は一歩たりとも進んではいなかった。
 この場合は意志によるものではなく、直感によるものが大きかっただろう。
 失着に終わった襲撃。妨害した自分。黒衣の襲撃者はそれで手を引くだろうか?
 否・・・次の標的は自分だ。

 さて選択肢は二つ。妹の救出か、それとも・・・
 いずれにしろ内一つは確実な奈落。志貴が選択()るべきは―――

 襲撃者の排除である。
 妹の手当ても救出も根本的な要因であるソレの解決無くしてあり得ない。
 静かに・・・滑るようにその手にはナイフが握られていた。

 しかし、その一瞬の迷いが状況を悪転させた。
 「・・・消えたッ!?」
 樹上の亡霊がまるで水溜りの波紋の様にスゥと消えた。同時・・・

 ――――――降り落ちる三連の魔弾ッ

 「くッ!!」
 咄嗟に後ろに飛び、見えた線を一文字に切った。
 そして、月明かりが幸いしたのか、闇にまぎれる黒色の刃・・・その刃に走る死の線を、志貴ははっきりと視認していた。
 有り得ない事、常軌を逸した技能だが、志貴は高速で飛来する投刃をナイフで弾いていたのだ。志貴自身信じられない事だが、事実ナイフはまるで吸い込まれる様に・・・いや、月明かりに輝く死線と、手に握られたナイフとが呼び合う様に重なり合ったのだ。
 今は弾いただけの投剣だが、持ちが逆手ではなく順手ならば確実にその線を薙いでいただろうと確信できる。
 本来ならば捕捉(みる)ことも不可能のはずのその射撃(飛剣)。はたしてその思考が正気の沙汰の事なのか夢中の志貴には考えが及ばない・・・ただ、

 ドクンッ・・・胸以外のどこかで、そんな衝動(おと)が響いていた。

 「・・・ぐっ」
 しかし、避け損ねた一本が左肩口を掠っていた。
 志貴は咄嗟に傷口を確認するも、彼の魔眼は傷口からひび割れた様に広がる死線以外は映さない。
 (・・・毒は無いか)
 奇妙な死が見えなければ問題は無い。しかし、散弾のように射線がバラバラの攻撃を切り払うは賢くないと自戒もする。
 敵の正体も目的もわからないが、こんな所で死ぬわけにはいかない。そして、秋葉を失うわけにはいかないと自身に言い聞かせる。

 「なんとか懐に入らなけりゃ・・・」

 そばの巨木に身を寄せながら志貴は独白する。間合いを詰めなければ話にならない。このまま逃げ続けるだけじゃジリ貧は確実だ。
 しかし、そうは言ったものの、志貴は敵を見失っていた。樹上から消えた亡霊は突如放った三連の投剣以降姿が見えない。
 「どこに行った?」
 辺りを見渡しても見つからない。不揃いに生えた木々と夜の闇とが視界を完全に塗りつぶしていた。

 「・・・ッ」

 動悸を整えるため大きく唾を飲みこんだ。
 相手は相当強い。勝てるのか?不安と緊張とが身体の芯よりジワリと湧き上がって来る。
 投剣の使い手は知っているがコイツほど不気味な奴は始めてである。先ほどの投剣も先に森の中で敵の獲物を確認していなかったら反応すら出来ずにやられていただろう。
 しかも、敵には投擲武器の唯一の対処法とも言える初動作(モーション)が見えなかったのだ。ゆえに、こちらが危ないと知覚出来るのは投げられた後なのだ。投球動作なしで投げられた豪速球など、捉えられる打者はいない。先ほどの攻防は多くの幸運が自分にあったからこそ凌げたのだと認識する。
 そう、過大評価でも臆病風でもなく、確実に敵の技量は自分を上回っているのだ。
 だが、そんな事は志貴にとっては瑣末事である。なにより優先されるのは妹の救出。いち早くこの襲撃者を倒して秋葉のそばに行かなくてはならない。
 しかし、さまざまな思考が一辺に流れて気持ちを焦らせる。
 ここは一度頭を冷静にする意味も兼ねて志貴はもう一度辺りを入念に観察した。
 (位置的に木の向こう側に潜んでいるはずだ・・・こちら側に周りこんで来る時なら懐に飛び込むチャンスもあるはずだ)
 ぎりぃ・・・歯を強く噛み締めて緊張と恐れを抑える。
 チャンスは一度きり。逃がせば後が無い。

 ―――ドクンッ

 「くッ・・・」

 眩暈がした。緊張で頭に血が上りすぎたのかもしれない。

 「いや・・・これか?」

 っと、そこで志貴は肩の傷を思い出した。かすり傷だろうがほおって置けるほど浅くもないだろう。慢性的な貧血持ちである志貴だが、今はリアルに血が足りないのかもしれない。まずは肩の怪我の止血をしなくてはならない。
 そうして、警戒を解く事無く、一旦上着を脱ぎ傷口の確認をしかけた時だった・・・

 ―――ドクンッ

 警鐘の様に心臓が鳴る。志貴は咄嗟に右に飛んだ。
 「・・・ぐっ」
 右足の太腿に痛覚が走る。避け損ねた一本が腿肉を抉っていた。
 「つぅぅッ」
 いつの間にこちら側に周りこまれたのか。投剣は反対の前方の暗がりから突如襲ってきた。
 (複数人?・・・いや、違うッ)
 断定できる材料など無かったが、今は自身の直感を信じた。なにより、これほどの技量を持った敵に二人同時に襲われたのなら防ぐ術は無い。今は、余計な事を考えずに目の前の敵に全神経を使うしか道はないのだ。
 今は敵の正体も勝算の有無も関係無い。ただ、体が動くままに繰り出される凶刃を避け続けるしか無い。

 そして、止血する猶予すら許されず、魔弾の第三波がその身を襲う。
 しかし今度こそ見切った。穿たれた三つの弾道の狙う射線を完全に捉え、上体を退け反らして一気に後方に飛ぶ。そして、勢いを殺す事無く逆手で地面を跳ねてハンドスプリングッ
 敵の攻撃をかわし、なおかつ一息に3mほどの距離を開けて志貴は態勢を立て直す・・・筈だった。
 ズルゥッ
 滑ったのだ、着地で。・・・足元が固定できない。重心が定まらない。上体が揺れる。
 迂闊にも・・・志貴は泥濘へと誘いこまれていた事を、今理解した。

 (・・・あれは)

 ぐらつく身体。定まらない視点が夜闇の木立ちの中で揺れる白いナニかを見た。

 (・・・月?)

 黒で塗りつぶされた景色にただ一点・・・まるで宙空に穿たれた白月のように浮かんだソレは頭蓋骨(シャレコウベ)。嗤う髑髏を模した仮面である。
 そして、視認したモノがあまりに禍々しく・・・あまりに不吉だったからだろう。

 ・・・ドクンッ

 ひときわ大きく鼓動が響く。

 ・・・■■なければ■■される

 頭に響く強迫観念(うめき声)・・・眼前には・・・

 ――――――飛来する三つの凶器

 バタバタと風切り音。脱ぎかけた上着(ジャケット)が振るわれた。
 体が先に動いた反射。ジーンズのジャケットは3本の剣を巻き込んで視界から失せた。
 危機一髪の生還。だと言うのに、その目の前に迫ったのは・・・

 ――――――さらなる秘刀(必殺)

 真っ直ぐに心臓に(はし)るその刃を見て。志貴は刹那のまどろみに酔った・・・

 ――――――ドクンッ

 鼓動は静かだと言うのに頭ばかりが熱い・・・
 夜温は震えるほど寒いのに頭熱はとどまる所を知らない。

 ―――体中の熱が頭を焼く妄想(ユメ)を見る

 腕から・・・足から・・・墨汁の様にドロッとした熱がジワリ・・・ジクリと脊髄を昇る。
 まるで白熱灯に群がる蛾。磁石に集まる砂鉄。理性(あたま)を溶かしてしまいそうなほどの熱が脳髄を侵している。
 ズクズクと肩の傷が頭を過熱する。ギチギチと腿の火種が頭蓋を炙る。

 (・・・あぁそうか)

 志貴の意識は刹那を裂いた虚空の狭間の内・・・
 コマ切れた永遠の中で理解していた。

 (守るとか救うとか、余分な感情(モノ)はいらない)

 目的は必要無い。対峙するのは二人。白い嗤面は■したい。俺もオマエを■したい。

 ―――ああ、なんて単純

 気がつけば・・・こめかみが千切れんばかりに(あつ)い。眼球と脳味噌の間に溶岩が流しこまれたようだ。

 (そうだ・・・アイツをコ■さないと・・・オマエを■ロさないと・・・)

 ――――――この殺意(ねつ)はおさまらない

 ガツッ・・・秘刀を断った一閃。蒼火の曳光が闇夜に揺れた。

 枯れた木々の雑木林。白ずんだ月だけが淡く照らす夜の中・・・

 「いいぜ、殺し合おう」

 殺人貴は告げていた・・・



  あとがき・・・と言うよりも中書き

 好きなサーヴァントはアーチャー。
 欲しいサーヴァントはライダー。
 成りたいサーヴァントはバーサーカー。
 萌えるサーヴァントはハサンタンのスエすけですw

 なにわともあれここまでお読み頂きありがとうございますm(ーー)m
 まだ続きますのでお付き合い頂ければ^^;

 シナリオはただ戦うだけじゃつまらんのでなにか因縁を作って物語に奥行きを造ろうと言う発想から前作「鬼蟲」の秋葉VS臓硯から変則派生した志貴VSアサシンにしました。

 設定に関してはノーガードの独自設定で通してますのでツッコミたい人はメッタ打ちしたいでしょうが許してやって下さい(泣
 月姫の何エンド後とかFATEのどの辺りとか聞かれても世界が108巡した後としか答えようがありません(爆死

 バトル描写はここぞとばかりに自分の好きな展開を詰め込んでいます。敵の飛び道具とかを切り払うのって男の子の夢だよねッ
 スエすけは「重いものは軽いものより早く落ちる」「15mまでなら問題無く水の上を走れる」「50キロの甲羅を背負って修行をすれば雲の上までジャンプできる」などの物理法則の星の住人です(頓死
 真の哀しみを知る者とかマヂ最強

 あとアサシンが死亡フラグ出してますけど仕様です
 我的勝利確定シーン
 「おまえはすでに死んでいる」
 「いくぞ英雄王(ry」
 「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ(ry」
 「ジョバンニが一晩でやってくれましたw」
 殺人貴に「殺し合おう」って言わせちゃいけねぇ>常考

 っと、いろいろ自分勝手に書いたせいで、いつにも増して読みにくいですが文章力については半ば諦めていますのでご勘弁くださいw


 つ「今回のNGシーン」

 さて選択肢は二つ。妹の救出か、それとも・・・
 いずれにしろ内一つは確実な奈落。志貴が選択()るべきは―――

 1.秋葉を助ける
 2.襲撃者の排除
 3.臓硯にパロスペシャル
 4.グレートキャットの召還←決定

志貴「猫アルクッ君に決めたッ!!」

猫ア「呼ばれて飛び出て即ビィィィィィィィッッむッッ!!!」

アサ「ま、魔術師殿ッ!自分はあの生物を見た事がありませんッ!?」

蟲爺「うろたえるなアサシンッ!!当たらなければどうという事はないッ!!」

猫ア「キュピリィーン☆ そこぉッ!!」

アサ「魔術師殿ォォォーーーーッッッ!!(真アサシン死亡確認)」

蟲爺「アサシンッ? 応答しろアサシンッ!? アサシーーーンッ!!」

猫ア「フ・・・ダンボールも持たぬ特殊部隊員など敵じゃねぇのですよ」

 終劇


 ぼくたちアサシン 魔術師殿(マスター)だけについて行く〜♪
 今日も潜(ひそ)む、戦う、逃げる、そして(アンリ・マユに)食べられる♪
 いろんなクラスが戦ってるこの町で♪
 今日も潜(ひそ)む、戦う、逃げる、そして(アンリ・マユに)食べられる♪

 召還されて 戦って 潰されて♪
 でも 私達 愛してくれとは言わないよ♪
 命令されて 戦って 吹っ飛ばされて♪
 でも 私達 マスター従い つくします♪

 アサシン 哀の歌
 アサシンは偽も真もZEROも全員不遇だと思います(泣き)

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