前回までのあらすじ

 こんにちはアサシンです。春と言う事で気分も晴れやかになってストーキングにも身が入る季節です。え?アサシン違い?嫌だな〜私が本物ですよ。
 でも、うちの家なんかは魔術師殿が日の光が苦手とかで花見にも行かないそうですよ。坊ちゃんと孫娘殿はそれぞれ友達と行ったみたいですけど・・・
 さて、お話はセイバー殿が町道場に勤めたため、モデルの居なくなったキャスター殿が小次郎殿をけしかけた所ですね。
 皆さん暇で楽しそうですね〜。私なんか情報収集と冥土喫茶のバイトと老人介護で遊ぶ暇なんか無いのに・・・

 さ〜て、来週のサクラさんは・・・

 慎二、海に帰る
 ライダー免停
 臓硯、冥土喫茶に行く・・・の3本です。(※やりません)

―――――――――以下本文

 さて、零観さんとアサシンが試合をするのだが・・・
 もちろん、アサシンが使うのは竹刀であり、物干し竿(真剣)なんて物騒なものではない。
 しかし、楽観は出来ない・・・何せあの佐々木小次郎が扱うのだ、棒切れといえど、凡人では相手にならないだろう。

 「小次郎殿、防具は如何される?」

 零観さんはこの局面に立ち、なお己を見失う事無く泰然としている・・・さすがだが、今回ばかりは相手が悪い。

 「いや、具足は不用・・・この身に不覚が有ったのならば、容赦無く叩き伏せるがよかろう。」

 何せ相手は伝説級の達人・・・レベルが一桁も二桁も違うのだ。

 アサシンは竹刀を受け取り、軽く片手で玩んでたかと思うと、おもむろに両手でダラリッと力無く下段に持つ。

 「ふむ、形は模造刀に違いないが、これでは竹と同じだな・・・」

 アサシンはそうぼやきながら横薙ぎに一振り・・・

 ゴウッッ!!

 ・・・風切り音と言うよりも突風の音である。後ろにいた俺にまで風が来た・・・・・・・

 アサシンの桁外れのデモンストレーションで道場全体が静まり返った。
 道場破りという普段無いシュチュエーションに浮き足立っていた生徒たちは一気に黙りこんでしまったのだ。

 そして、ただの一振りで場を完全に戦慄させた怪物は・・・

 「ふむ、違ったか・・・」

 などと呟きながら今度は正眼に構える。
 ・・・いや、俺の知る正眼よりもずっと足を開いている。重心のかけ方も等分で、構えたと言うよりも剣を突き出したと言う方が正しいだろう。

 ヒュッ・・・

 突如振りぬかれた竹刀・・・太刀筋は袈裟切りに足下まで。
 振りかぶりから振り抜きまで実に静かに、先ほどとは打って変わって涼風すら起こさずに振りぬかれたその竹刀・・・しかし、その剣の質は異質。

 ただ感じたままに言えば、俺はその剣が振り抜かれた時・・・いや、振りぬいた後やっとアサシンが斬った事を知覚したのだ。

 振りかぶりから踏み込み・・・残心に至までの全ての動きが流れる様・・・いや、ただ単一の動作である様にしか見えなかった。

 斬った・・・アサシンは言葉通り斬ったのみなのだ。
 斬ると言う動作に人が付けた数々の理論・・・それら全ての動作をただ斬ると言う言葉のみに集約した一太刀・・・太刀筋も速さも関係無い、アサシンが斬ったのならばそれは確実に斬られる定めにある・・・

 ・・・確信する。今、あの場にいたのが俺ならば、この体は二つに割れていたのみだと・・・

 ―――――――――まさに絶技

 常人ではたどり着けぬ剣技がそこには在った。
 俺では何万、何億と繰り返そうとあの境地にはたどり着けない・・・まさに天賦の才である。

 しかし、さらに恐ろしいのは、その技すらアサシンにとってはただの凡百の打ち込みにすぎないという事だ・・・かの騎士王を退かせた魔剣とは、さらにその奥に秘めたものなのだろう。

 「先生・・・大丈夫ですか?」

 気付けば、零観さんの周りには彼の安否を気遣う子供立ちがたむろしていた。
 いや、彼らは恐ろしいのだろう。あのアサシンから立ち上る禍々しい闘気に恐怖し、零観さんに助けを求めているのだ。

 しかし、俺には何も出来ない・・・彼らの不安を拭い去る事も、この戦いを止める事も・・・


 アサシンは2,3振り竹刀で打ち込みをすると、今度は片手でダラリと肩に担ぐように持ち直し、零観さんの前まで歩き出した。
 あくまで颯爽とした陣羽織の男は、だからこその怪異な剣気を持って零観さんの前へと対峙した。
 さすがの零観さんも額に汗をにじませている。

 「・・・セイバー殿。かの御仁は尋常ならざる使い手だ・・・正直、拙僧では万が一の勝ちもあるまい。しかし、必ずその剣の綻びを見出して見せましょう。」

 零観さんはアサシンと対峙しながら、己を勝利の礎とすべしとセイバーに伝える。

 「・・・はい、レイカン。その申し出、ありがたく頂戴します。」

 セイバーもその意を汲む。もはや止められぬ勝負・・・後は悔いの残らぬよう、戦士を送り出す以上無いのだ。

 「では、始めようか?」

 アサシンの涼やかな声。竹刀を力無く片手で垂らし、それでいて何処にも隙の無い立ち姿で零観さんの前に立つ。零観さんは・・・

 「ところで、小次郎殿。貴殿はルールをご存知でしょうか?」

 根本的な疑問を投げかけていた・・・

 「うむ、心配ご無用。先ほど女狐めに渡されたるーるぶっくが有る。」

 そう言ってアサシンが懐から取り出したのは「猿でも解る剣道のイロハ」と書かれた児童向けの本だった。
 アサシンは何処からとも無く眼鏡を取り出し掛けると本を開いて読み上げ出す。

 「これによると・・・額と横腹と腕を、いずれか二度叩けば良いので有ろう?」

 「うむ、あと喉も有りですな。」

 「おお、そうであったか。かたじけない。」

 何処か間の抜けた零観さんとアサシンの会話。まあ、別に間違っちゃいないけど、はしょりすぎな気がしないでもない。


 とりあえずアサシンに簡単な試合の形式だけを教えてから試合を始めた。
 ちなみに主審は俺がやって副審を遠坂とセイバーにやってもらった。

 「始めッ」

 俺の掛け声と共に試合は始まった。
 対峙する二人は互いに遠間のまま動かない。

 「セヤァァァッッッ!!」

 激しい気勢と共に剣気を膨らませる零観さん。

 「ほぉ、良い気を持っているようだな・・・」

 対するアサシンは零観さんの腹に響くほどの気迫を柳に風とばかりに受け流し、ダラリと構えを崩している。

 ・・・・・・ジリッ

 零観さんは慎重に間合いを詰める。ゆっくりと、だが確実に決戦の間へと進むすり足。上体は不動にして完全に隙のない正眼の構えだ。

 そして、そろそろ双方間合いに入ろうかと言う頃・・・

 「では、参るか・・・」

 小次郎が動いた。

 その動きは緩慢にして無策にしか見えない代物。剣も構えず軽く半歩踏みこんだ。
 その地点は完全に間合い。

 「面ッッッ!!」

 零観さんは一足一刀のもと、一息に斬りかかるッッ

 振り下ろされる竹刀。その切っ先は完全にアサシンの額に合わさり、その無防備な男を叩き伏せようと迫る・・・


 パンッ・・・・・・


 乾いた竹の音が響いた。

 「は?」

 いったいどんな魔法か・・・必殺の気焔を持って踏みこんだ零観さんの横を、涼風が吹きぬけた様に見えた刹那・・・まったく剣を構えてすらいなかったアサシンの竹刀が、零観さんの胴を打ち抜けていたのだ。

 「ふむ、これで一本か?・・・では」

 誰も口を聞かない空間。主審であるはずの俺も完全に忘我していた。
 それは零観さんも同じなのか、己の横を通りすぎた神速の剣の男へと振り返ろうとし・・・

 「これで二本だな?」

 凍るほどに冷めた言葉と共に、喉へと付きつけられた剣先に動きを封じられた。

 「・・・で、あろう?セイバーのマスターよ?」

 アサシンは主審である俺に勝利の確認を取った。その言葉には、隠しようの無い殺気がにじみ出ている。

 「しょ・・・勝負有りッッッ!!」

 俺は叫ぶ様にアサシンの赤旗を揚げて勝利を宣言した。

 本来ルール上ではアサシンの打突は両方とも有効打に認められない。
 しかし、俺があの場でアサシンの勝ち名乗り以外の事をほのめかせば、アサシンは躊躇することなく零観さんの喉元を防具ごと突き倒し、己が勝利を証明していただろう。

 「いや、参った・・・降参だ。」

 零観さんも両手を上げて降伏の意志表示をする。無理も無い、正直聖杯戦争で戦った俺自身忘れていたのだ。あの男がどれほどの恐ろしい存在なのか。あいつは強い弱い以前の問題として、相手を殺す事に何の躊躇いも持たない・・・俺達とは違う次元の剣士なのだ・・・
 だと言うのに零観さんの声は爽やかに笑っている・・・うーむ、侮れない・・・

 「ふむ、どうやら余興は終わりの様だな・・・さて、では大詰めと行こうか?セイバー・・・」

 アサシンは剣先をセイバーに向け、口元をほころばせる。アサシンにとってはこの戦いは僥倖なのだろう。剣の強さのみを追い求めたアサシンにとって試合形式とは言え、セイバーとの打ち合いは望み通りの展開なのである。

 「・・・・・」

 セイバーはその視線を果然と受け止め黙する。

 「如何した、セイバー?お主が受けぬのならば、看板は貰いうけて行く他無いが?」

 アサシンはおかしそうにセイバーを挑発する。

 「・・・・・・案ずるなアサシン。私は逃げも隠れもしない。・・・誓おう、セイバーの名に賭けて我が道場の誇りは汚させぬッ」

 セイバーは胸に手を当てて敢然と名乗りをあげた。

 「それでこそセイバーだ・・・ならば拙者も誓おう。この身、アサシンの名に賭けて必ずやその身を討ち果たそう。」

 アサシンは、これ以上の愉悦は無いとばかりに凄絶な笑みを浮かべる。
 ・・・ついに、両雄が激突するッ

 「あ、あとこの書類に署名を頼む。」

 唐突にアサシンが懐から紙を取り出す。紙には「キャスター終身雇用契約書」と書かれていた・・・

 「どれどれ」

 なぜか遠坂が眼鏡をかけて書類を受け取る。

 「週休完全二日、交通費昼食代支給、昇給は応相談・・・いいじゃないこれ。」

 「ふむ、当道場よりも待遇が良いな。」

 「うむ、キャスターも勉強したと言っておったぞ。」

 ・・・なんだか、何処から突っ込んで良いのか分かりません・・・

 「・・・で、こっちが勝ったら何があるって言うの?」

 っと、自分の事でもないのに偉そうな遠坂。

 「ふっ・・・煮るなり焼くなり好きな様にいたせ。」

 何処か潔いアサシン。

 「ちょっと、そんなんじゃこっちに得なんて無いじゃない。」

 やはり自分の事じゃないのに(ry

 「では、黒幕殿には当道場の賄い婦になって頂くというのはどうか?」

 また珍提案をする零観さん・・・

 「はっはっは・・・結構結構。女狐めには良いお灸となろう。それで良かろうセイバー?」

 「私は一向にかまいませんが。」

 「・・・・・・・・・かまえよ。」

 場の雰囲気に付いて行けない一般人な俺であった・・・



 「セイバー・・・ほんとに大丈夫なのか?」

 アサシンとの試合を控えるセイバーに俺は尋ねていた。セイバーは子供達の手前、きちんと着装しようと防具を着けている最中だ。

 「ええ、師範も手伝いは居るほど良いと言っていました。」

 「いや、そっちの話じゃなくて・・・」

 「ふふっ、分かっています。・・・確かにアサシンは強敵です。」

 セイバーは穏やかながら、その奥に凍てつく刃を思わせる口調で答えた。

 「しかも、今度の戦いは剣技に限定したもの・・・試合形式とは言え、苦しい戦いになるのは分かっています。」

 そう、道場での試合というのが今回のミソだ。通常のサーヴァント戦であれば、ブースト(魔力放出)や聖剣などセイバーの有利は沢山ある。
 しかし、竹刀での試合となれば話は別だ。アサシンが使っていた物干し竿は秀逸な業物とはいってもただの剣である事に変わりは無い。それでセイバーの聖剣と渡り合ったのはアサシン自身の技量が桁外れに高かったからに他ならない。双方同じ武器を使っての試合では、どちらに分があるかは火を見るよりもあきらかだ。
 ・・・いかにセイバーとは言え、この条件でアサシンに勝つのは・・・

 「・・・すまない、力になれなくて」

 情けない・・・マスターとは言っても、こんな時に力になれないなんて・・・

 「シロウ・・・貴方が気に病むことは―――」

 「セイバー先生・・・」

 か細い囁きのような少女の声に、深刻な雰囲気が薄れた。

 「・・・マユミ、どうしたのですか?」

 セイバーがマユミと呼んだ少女は不安そうな顔でセイバーを見る。

 「先生、あの怖い人と戦うの?」

 どうやら、教え子の少女がセイバーの身を案じて来たようだ。

 「はい、私は道場の威信に賭けて勝たなくてはなりません。」

 セイバーは凛と答える。

 「・・・でも、先生負けたらここから居なくなっちゃうんでしょ?」

 少女は・・・本当に悲しそうに言った。

 「はい、そうなります。」

 セイバーは話を濁さず、しっかりとその結末を語った。

 「そんなの嫌だよっ!!」

 マユミちゃんは声を荒げて反対した。
 同時に、後ろには他の子供達も詰め掛けていた。

 「セイバー先生、居なくなっちゃうのやだよッ」
 「先生、勝てッこないよ。やめなよッ」
 「先生、負けちゃやだよ―」

 沢山の声がセイバーを惜しんでいる。

 「みんな・・・」

 セイバーは少し困っている。

 「先生・・・」

 ずいっと前に出てきたのは先ほどのケンタ少年だ。

 「僕、先生の言う事ちゃん聞くから・・・稽古も真面目にやるから・・・だから出ていかないでよッ!!」

 それらは痛切な願いだった。セイバーを必要とする者、セイバーを大切に思う人たちが彼女の戦いを引き止めている。
 あぁ・・・本当に情けない。俺は、こんな子達の笑顔を守りたいから強くなりたかったのに・・・今の俺じゃ、何も出来やしない・・・

 「皆・・・ありがとう。」

 セイバーは子供達の言葉を受けて困った様に・・・でも、それ以上に嬉しそうに言った。その顔は花のような少女の顔。そして・・・

 「私は負けません。例え相手が悪鬼羅刹であろうとも、皆を置いて行くような事はしませんッ」

 そう言いきった顔は、遠い星の輝きを纏った騎士の顔だった。


 俺が子供達に囲まれるセイバーを見ていると・・・

 「ほんと、よくやるじゃないセイバー。あんなに子供達がなついてるなんて」

 いつのまにか横に来ていた遠坂が呆れ半分、喜び半分で感心していた。

 「あぁ、俺も嬉しくなっちまう。」

 ほんの1ヵ月ほどとは言っても、セイバーが子供達にしてきた事が間違いではないと、意味のあった事だと安心できる。

 「ほんとにこんな馬鹿な挑戦、受けなくちゃいけないの?」

 遠坂は少し悲しそうな口調で言う。

 「・・・俺もほんとは止めたいけど。それじゃキャスターが納得しないだろう?・・・それにセイバー自身が子供達のために、自分の居場所の為に頑張ろうとしてるんだ。水は差せないよ。」

 なぜか、不謹慎ながら本音を呟いていた。

 「・・・ほんと、主従そろっておめでたいわね。」

 呆れたとばかりに遠坂はお手上げのポーズをする。

 「――――――いやまったくだ。その胆力、学ぶものがあるな。」

 爽やかに笑いながら、今度は零観さんがやってきた。

 「零観さん、怪我とかは無かったですか?」

 一応、試合とは言ってもサーヴァントとやり合ったのだ、怪我の確認は怠れないだろう。

 「はっはっは、恥ずかしながらピンシャンしている。不甲斐ない道場預りだと叱ってやってくれ。」
 
 ・・・いや、アサシンの気当たりをまともに受けてのこの豪放さにはさすがに勝てません。

 「しかし、セイバー殿にはこのような鉢を回してしまい、すまない事をした。子供達はセイバー殿を好いている。それに、彼女の真摯な教育姿勢と、悠然とした人柄は子供達に良い影響を与えている。このような形での終わりではあまりに酷と言うものだ。」

 零観さんは珍しく笑みを消し、真面目に悔いている。けど・・・

 「大丈夫ですよ。セイバーは必ず勝ちます。」

 はっきりと言いきった。
 それだけは自信を持って言えたからだ。セイバーが必ず勝つと言ったのだ。彼女はその約束を裏切らない・・・そんな確信があった。
 なんだけど・・・零観さんは「やはり学ぶものがある」と笑い。遠坂は呆れてしまっていた。
 ・・・むぅ、俺の甲斐性ではこれが精一杯か。


 ・・・そうして、最後の舞台の幕が上がった。

 剣道の礼にのっとり、双方の礼と抜刀が行われる。・・・ちなみに、竹刀は一応サーヴァントの戦いに耐えられるよう強化したが、本気でやらないよう二人には注意した。
 しかし、戦いを前に双方の気合は十分に高まり、鳥肌が立つような闘気が道場を覆っていた。
 主審は零観さん、副審は俺と遠坂。しかし、この二人の戦いを人の目で追う事が出来るのだろうか?・・・そんな疑問、不安など待つ暇も無く・・・

 「始めッ!!」

 零観さんの号令と共に決戦の火蓋は落された。

 「ハァァァァ・・・」

 セイバーの深い気勢が水面の波紋の様に静かに広がる。
 ビリビリとした殺気に肌が総毛立つのが分かる。

 「・・・くっ」

 思わず苦悶が漏れてしまった。
 並大抵の事じゃない・・・セイバーの気合はまるで道場を揺らすかのように広がっているのに、空気や熱気はまるでセイバーに吸収されたかのように薄れている。

 そんな異常な気圧の中、本来なら対峙するだけでも体力を使うような剣気を前に、アサシンは何処までも涼やかな顔を崩さない。

 間合いは三間・・・セイバーならば一瞬に詰められる間合いだ。
 アサシンもそれは承知だろう。先ほどとは違い、脱力している様で、その姿には隙が無い。

 スッ・・・

 衣擦れの音。動いたのはアサシンだ。
 緩やかな前進。それに呼応したのはセイバーだ。

 「――――――面ッ」

 隔たる距離をゼロにして、神速の一撃が走るッ

 「――――――応ッ」

 応じたアサシンは明かな出遅れ。正面から打ち込むセイバーに逆袈裟に剣を合わせるが・・・

 カッ・・・

 ししおどしのようなやさしい音が流れ、セイバーの剣が横に流れた。

 ・・・明かにおかしい。あのスピード同士の物体がぶつかり合えば、双方弾き合うのが道理だ。・・・しかし、目の前の現実ではセイバーの剣が力なく横に流れただけ。

 受け流し、いなしなどと呼ばれる技術だが、それらはあくまで勢いを削る事が目的。勢い事態を無いものにしてしまうアサシンの太刀はもはや別物と言える。

 しかも、拙い事に空振りしたセイバーの剣は振り下ろされたまま、逆にアサシンの剣は既に上段にかかげられている。このままでは完全に出遅れるッ

 ガッ

 上段から振り下ろされた太刀をセイバーはかろうじて柄で受け止め、一気に後退する。

 ザッ

 一足でもとの間合いに戻った戦い。攻防は一瞬だったが、その差は歴然であった。
 それぞれ攻め一手、受け一手、双方互角に見えた戦いも、その実セイバーの一撃を見切った上でいなしたアサシンと、アサシンの一撃を辛うじて柄で受け止めたセイバー・・・決してセイバーの力量が劣っているわけではないが、技においてアサシンが先んじているのは確実だった。

 「どうしたセイバー。臆していては名が泣くぞ・・・」

 涼やかに挑発するアサシン。

 「・・・・・・・・・」

 セイバーは黙したままだ。・・・ちなみに、剣道に限らずスポーツ競技全般は競技中の私語を禁じているので、あしからず。

 ジリ・・・ッ

 セイバーは黙って構えを変える。利き足を後ろに下げ、相手に対して半身を取りつつ剣先を後ろに下げて腰元に添えた構え。いわゆる脇構えと言うやつだが、セイバーはいつも渾身の一撃の前にはこの構えを取る。

 ただ黙していたセイバーは構えを代える事で、アサシンに己の闘気を示したのだ。

 ――――――――先ほどのセイバーとのやり取りを思い出す。

 セイバーは子供達に送り出された後、俺にだけ今回の勝算を正直に話してくれた。

 「8割がた分の悪い戦いになります。」

 それがセイバーの目算だった。

 「アサシンの戦法はこの競技に適したものです。この剣道という競技は私のように打ち合いを想定した剣技よりも一太刀の優劣に重きを置いた技術体系です。これは一刀必殺を狙うアサシンのそれに近い。」

 確かにセイバーの言う通りだった。相手の獲物を打ち破り、掻い潜ってダメージを与える洋式の剣術よりも初手から必殺にいく日本の剣術では若干の違いがある。

 「けど、それならわざわざ剣道に付き合う必要はないんじゃないか?」

 無駄を承知で聞いた。セイバーは自分の戦い易いように戦えば良いのではないかと・・・
 しかし、やはりセイバーは首を縦には振らない。

 「それは不可能だシロウ。並の使い手ならばどの様にも組み伏せる事が出来るでしょうが、相手がアサシンでは小手先の技は全て仕掛ける前こちらの命を断ちに来る。地力において優り切れない今の私では、アサシンの剣を突破する事は叶わないでしょう。」

 ・・・つまり、否が応にもセイバーはアサシンの剣に合わせなくてはならない。それが出来ない時は、自身の敗北しかないと言うのだ。

 「それじゃあ・・・」

 セイバーの勝ちはありえないのか?

 「いえ、しかし勝機はあります。」

 セイバーは俺の諦観を振り払う様に強く言った。

 「アサシンの技が一撃必殺だと言うのならば、それを逆手に取ることが出来ます。かの剣が不可避の技だと言うのならば、敢えて受け、そこに活路を見い出す他ありません。」

 「それはつまり・・・」

 「はい、無効打突を誘い、そこを討つのです。」

 「それはまた・・・」

 随分と卑怯な手である。

 「・・・はい、恥ずべき策である事は認識しています。・・・しかし、その手以外にかの剣士を退かせる方法は無いでしょう・・・」

 セイバーは悔しそうに語る。
 これが通常の戦闘ならば、肉を切らせて骨を断つと言う事に何の躊躇いも持たない彼女だが。競技と言う、自身に何らリスクを伴わぬ競い合いの場でその手を使うことには抵抗を禁じえないのだろう。
   本来スポーツとは自身の成長の為に行うもので、競技においては競い合い高め合うことが求められる。それならば、相手のミスを誘う行為はテクニックとしては上等でも、本義から言えば埒外の代物である。

 「正直、子供達にも・・・シロウにもその様な姿は見せたくなかった・・・」

 セイバーの葛藤は指導者として、模範としてあるべき自身への葛藤であり・・・

 「しかし・・・私は必ず勝たなくてはならないッ」

 その決意もまた、少年少女を思う故だった・・・


 そう・・・初手こそは正道で攻めたセイバーだったが、再びアサシンとの対峙で悟ったのだ。

 ――――――――手を抜いてはならない。

 なりふり構っていては勝ち得ない。それが目の前の強敵だと・・・

 揺るがぬ構えのまま目の前のアサシンを凝視するセイバー。
 闘気は膨れ上がり、その目が語るのは次こそは渾身の・・・必倒の一撃であると言う事。

 「アアアァァァ・・・ッ」

 決着に向けて高鳴る気焔を上げる・・・  アサシンは微動だにせず、闘気膨らむセイバーを愛でる様に見つめる。

 「そうだ、全身全霊を持て・・・それでこそ我が身がここにある意味が持てよう。」

 それが願いだとアサシンは告げる。陣羽織の剣士にはこの勝敗の行方など眼中に無いのだ・・・ただ、目の前に全力で相対するものが居る。それこそが剣士の目的であり存在の意味だと言うのだ。

 在るものを守るが為に強くあろうとするセイバー・・・

 無いが故に強さのみを求めつづけるアサシン・・・

 両者は、その強さから佇まいまで全てが異質だった・・・

 しかし、この一撃・・・それに賭けるものは同じッ


 「「――――――――ッ」」

 爆ぜた・・・少女の体はそのもの爆風となって飛んだ。

 飛んだ・・・陣羽織の剣士は獲物切り裂く猛禽類の猛爪の様に飛んだ。

 翻った刃はアサシンの物。
 三日月を思わせる太刀筋はセイバーの胴を薙ぎ払おうと振るわれたッ

 セイバーは上体を下げる。
 その腕で一撃を凌ぎ、間髪入れずにその脳天をかち割らんと身構えた・・・そしてッ

 ――――――――ポンッ

 空砲のような音一つ・・・

 暴風を纏った一撃は空振り・・・

 アサシンの一振りが綺麗にセイバーの面を叩いていた・・・・・・

 一瞬の静寂が流れた後、双方弾かれた様に間合いを取る。

 再び開かれた両者の間・・・しかし、先ほどと違うのは双方の勝敗は既に決したと言う事。
 片や涼やかな勝者・・・片や驚愕の敗者・・・

 零観さんは既に赤旗を挙げてアサシンの有効打突を認めている。
 遅れて俺と遠坂が弱々しく挙げた赤旗を見て・・・

 「1本ッ」

 零観さんの声が響いた・・・

 セイバーは驚愕している。もちろんだ・・・誰もが驚き、声も上げられないのだ。
 あの・・・魔剣士の魔技を見たからには・・・

 確かに、あの激突の刹那に振るわれた胴への一撃はアサシンのもの・・・しかし、セイバーの一撃を横に捌きながらの面打ちもまたアサシンのものだった・・・
 つじつまが合っていない・・・何故なら、アサシンは胴打ちを止めて面に切り替えたわけじゃない。面打ちと胴打ち・・・それはまったくの同時の動作だったのだ。
 ・・・でなければ、セイバーの一撃をかわせるわけが無いッ

 矛盾にして事実・・・明瞭にして不可解な勝利(出来事)だった・・・


 「どうしたセイバー?まさかあのような一撃がお主の全力ではあるまい?あの様ではまるで蚊トンボを切るような儚さであったぞ・・・」

 ・・・アサシンの言う通りだった。セイバーが本来の全力で放った一撃ならばアサシンとて容易く捌く事は出来なかったはずだ・・しかし、相手の隙を誘うと言う、ほんの僅かな余分がこの結果を生んだ。

 そう、奇しくもセイバー自身が言っていたのだ・・・この男、佐々木小次郎と言う剣客には小手先の技など通用しない・・・と。

 しかし、これで全てが終わったわけではない。2本先手と言うルールがある以上まだ決着はついていないのだ。
 だが、開始線に戻るセイバーの足取りは重い・・・
 必倒の策を持ってしてもまだ届かぬ大敵。それをどう討ち果たせば良いのか?・・・その答えを見い出すには、この僅かな間では足りないのだ・・・

 「・・・くっ」

 どうにかならないのか?
 打つ手は無いのか?
 急く心が取り止めも無く思いを巡らせ、急速に色を失っていく。
 そんな情けないだけの悔しさに震えている間にも試合は再開された。

 「二本目・・・始めッ」

 試合再開の合図・・・同時にセイバーは飛び出したッ

 強襲の振りかぶりの一撃ッ・・・すくい上げで弾くアサシン

 続けざまの胴への次撃ッ・・・叩き落しで防ぐアサシン

 同時に横に抜けたセイバーが振りかえりに逆胴ッ・・・僅かな後進でかわしたアサシンが間髪入れずに刃を振るうッ

 刀身で辛くも受け止めたセイバーはそのまま後ろに飛んで間合いを取るも、即座に踏み込み、攻撃の手を緩めない。

 ・・・もはや目で追えぬ応酬が開始された。

 セイバーはフットワークを駆使し、右から左から、下から上からとアサシンに猛撃を繰り返す。踏み込みと斬撃のスピードなら負けぬアサシンも、こと機動力ではセイバーに敵わない。
 セイバーは機動力を駆使し、試合場を駆け巡るッ

 そして連撃に続く連撃ッ・・・目にも映らぬ攻防は突風と打撃音だけを道場に撒き散らすッ


 まったくどうかしてる。セイバーの心が折れるわけなんてないッ
 小細工が破られたのがどうしたッ・・・決して負けぬと・・・必ず勝つとその勇姿が物語っているッ!!

 「「先生がんばれーッ!!」」
 「「セイバー先生負けないでーッ!!」」

 さらに、セイバーの勇姿に勇気付けられた子供達が声援を始める。大敵に立ち向かうセイバーにとってはなにより心強い応援だ。

 そして、さらに戦いは加速するッ

 唸る竹刀ッ
 弾け合う体躯ッ
 交じり合う剣戟は火花を散らし、なお速く、なお強く、刻一刻と威勢を高める。


 「セヤァァァッ!!」

 ひときわ強い踏みこみと共に振るわれた渾身の一撃ッ

 「ぐ・・・ぬッ」

 受け手はアサシン。そして、直受けもその苦悶の声も、この試合始めてのものである。

 ギギギッ

 激しい鍔迫り合いに火花が散る。強化により鋼以上の強度を持った竹刀すらも、双方の激しいぶつかり合いに悲鳴を上げているのだ。

 「・・・それでこそ、セイバーだ・・・ッ」

 アサシンはたたらを踏みながらも余裕の笑みを消す事無くセイバーを賞賛する。しかし、その声音は擦れ、アサシン自体の切迫さも如実に物語っている。

 フ・・・ッ

 アサシンの姿が霞んだ様に見えた。・・・まるで流水の様にその姿がセイバーの横に流れる。
 アサシンはセイバーの力を虚を持って去(い)なし、隙を誘うつもりなのだッ

 「ふッ・・・」

 短い呼吸と共にセイバーの体が翻る。ここまで来てアサシンを逃すつもりなど無いのだ。

 ガガガッ

 目に映らぬ攻防・・・アサシンを追ったセイバーの攻撃が三度行われた事が音だけでわかる。

 ザーーーーッ

 アサシンは辛うじて防いだが、激しい当たりに擦れ音を立てながら後ろに滑っていく。
 さらなる追撃に臨もうとバネのように上体を屈めるセイバーッ

 「止めッ」

 ――――――零観さんの声がセイバーの追撃を押し止める。反則である。アサシンが試合線を越えたため試合は中断したのだ。・・・一応これは試合だったのだ。

 静かに開始線に戻るセイバー。アサシンは涼やかに笑いながら堂々と開始線に戻る。
 開始線に両者が戻ると零観さんがアサシンに「反則一」と言って、アサシンも「ウム」と了承し、試合が再開される。

 「いや、るーるとやらに救われた様だな。実に見事な舞だったぞセイバー。」

 アサシンは窮地だったなどと塵ほどにも思わせない口調で言う。

 「・・・・・・」

 やはりセイバーは黙したまま構える。
 そして、無形の構えを持つ優雅な男は・・・

 「―――――これでこそ、存分に振るうことが出来よう。」

 始めて、己の得物を構えた。

 剣を右肩に担ぎ上げるような特異な構え。・・・八双と呼ばれるその構えは、かの巌流島での決闘で佐々木小次郎がとった構えと伝承されている。

 一方セイバーもアサシンの気迫に応じて構えを変える。
 再びの脇構え。一刀に全力を賭けるセイバーの必殺の構えは、遥か昔の剣豪宮本武蔵がその人生最大の敵、佐々木小次郎を破った構えとされている。

 ・・・セイバーは無言の下に、アサシンの誘いに応じようと言っているのだ。

 ・・・ごくッ

 知らず、息を飲み込んでいた。
 この目に見るのは古の決闘。幾世の時を越えた天下一の一戦であると戦慄したのだ。

 「「先生負けるなーッ!!」」
 「「頑張って、セイバー先生ッッ!!」」

 子供達の応援にも気合が入り、いくつもの声がセイバーを奮い立たせる。
 ・・・気がつけば幾人かの子が旗を持ち出して振っている。まるで応援団のようだが、足元には俺が持ってきたセイバーの弁当(3段重)が置いてあり、少し危なっかしい。


 そして、一剣士としての誇り、道場の看板、そして何より――――子供達の期待を背負って、セイバーは戦いに臨むッ

 「いざ――――――勝負ッ」

 謳ったのはアサシン。

 飛び出したのはセイバーだったッ

 両雄の激突に刮目した俺が見た結末は――――

 「遅い・・・」

 聞こえた声はそれ・・・

 映った光景はセイバーの側面から斬りかかったアサシンの姿だった。

 どういった魔法か・・・アサシンの姿は一瞬にして、欠片のラグもなくその位置に移っていた。そう、瞬間移動(そんなこと)は不可能だ。ただの目の錯覚である。それでも、本当にそう映ったのなら・・・それは――――――瞬間移動と言って過言では無いのではないか?
 それは静と動、虚と実を併せ持った常識ハズレの早業だった。

 そして、振り下ろされる凶刃。
 直進していたセイバーは側面からの攻撃を辛うじて刀身で受け止めたが、抗し切れずに吹っ飛んだ・・・

 そう、俺の見た結末は最悪のものだった。

 この佐々木小次郎と言う剣豪は、こと剣での戦いにおいてはどんな手を持ってしても踏破する事など出来ない魔人だったのだ・・・


 吹き飛んだセイバーは倒れこみ、完全に隙を晒す。

 「「「「センセーーーッッッ!!」

 子供達の叫び声が聞こえる。
 しかし、間に合わない。アサシンが逃すはずが無い、完全に捉えられた・・・詰みである。

 そして、倒れたセイバーを襲うのは美しくも残酷な弧月の一撃・・・ッ

 そんな中――――

 「やべっ弁当倒しちゃった・・・」

 そんな子供の焦った声が聞こえた・・・ 


 次の瞬間、巻き起こったのは風・・・
 いや、それは風と呼ぶには大きすぎた。
 大きく、激しく、鋭すぎた・・・それは、まさに竜巻であった。

 アサシンが風に飲まれて錐揉み状に吹っ飛んで行った・・・

 子供たちがあまりの事に黙り込んだ・・・

 そして、竜巻が起こった場所・・・すなわちセイバーが倒れた場所に現れたのは・・・

 迸る魔力と空間を走る紫電・・・銀光を照り返す白銀の鎧と流れる金砂の髪・・・伝説に残る円卓を束ねた竜、騎士王アーサーの姿がそこにあった・・・

 って言うか・・・

 「反則やんッ!!」

 おもわず大阪弁で突っ込んでしまった俺に構わず、零観さんと遠坂は白旗を揚げる。

 「一本っ」

 「良いのかよッ!!」

 ちょっと涙目で訴える俺に零観さんではなく遠坂が・・・

 「有効(いんじゃない?)」

 「よくねーよッ!!ってか競技がちげーッ!!」

 俺の必死の突っ込みも空しく響く中・・・

 「「カッケェェェーーーッッッ!!ライダーだっライダーだっ!!」」

 子供達がセイバーの変身にはしゃいでいる。

 「何を言うのです、私はセイバーです」

 セイバーは真面目に訂正していた。

 「それよりもシロウ。昼食は無事でしょうか?」

 ・・・嗚呼、そうだった。セイバーにははそっちのほうが重要だった。

 「先生、ちょっと崩れたけど中身は大丈夫ですよ。」

 少しばかりかしこまったケンタ少年がセイバーに報告する。

 「そうですか・・・無事でしたか。」

 セイバーは心底安心したように胸をなでおろす。
 そして、今度は真剣な顔になって吹っ飛んだアサシンのもとに向かう。
 
 アサシンは竹刀置き場に突っ込んでいた。しかし、瓦礫の山に埋もれながらも必死に優美な顔を崩さない。・・・必死なのに優美とはこれいかに?
 まさに矛盾存在。
 そんなアサシンの目の前にセイバーは立つ。

 「アサシン。剣道の試合にもかかわらず武装したことはまずは詫びましょう。物言いが有るのならば聞きますが?」

 どうやらセイバーには自覚があったようだ。
 アサシンは立ち上がることも出来ず、倒れ伏したまま口を開く。

 「いや、模造刀の試合とは言え興が乗って油断した・・・我が身の不覚だ、気に病む事もあるまい。」

 「・・・そうですか。」

 アサシンの潔さにセイバーもそれ以上の言葉が見つからないようだ。

 「それにな・・・何より、予想以上に痛手であったようでな・・・これ以上、刃を交えることは叶わぬようだ・・・」

 ・・・まあ、アサシンの怪我はパッと見ただけでも生身なら全治何週間になろうかと言う大怪我だ・・・

 「それでは・・・」

 「うむ、そなたの勝ちだセイバー・・・ただ最後に聞いておきたいのだが?」

 「なんでしょう?」

 「最後の一撃・・・あれは飯を思った故の事か?」

 「・・・は、恥ずかしながらその通りです///」

 セイバーは赤面しながら頷く。

 「そうか・・・いや、やはり煩悩是強し・・・我が剣も食い気には敵わぬようだ・・・」

 パンッ・・・セイバーの一撃がアサシンに止めを刺した。

 「失礼な。それでは私が喰意地が張っているようでは無いですかッ!?」

 ・・・その事については、同じ運命はたどりたくないのでアサシンをフォローできないのであった
 遠くでは零観さんの「一本。勝負あり。」の声が聞こえる。

 アサシンは血反吐を吐きながらも最後の言葉を言い残す。
 
 「ふっ・・・美しい小鳥だと思ったのだがな・・・その実、ウワバミの類であったか・・・」

 ガクッ・・・流麗なる剣士佐々木小次郎、闘死ッ!!

 こうして、波乱の道場破りとの戦いは幕を閉じたのだった・・・


 ―――――さて、それからどうなったかと言うと。

 「ケンタ、剣先が落ちています。」

 「はい先生ッ!!」

 「コウジ、背が曲がっています。」

 「はい先生ッ!!」

 実にキビキビとした稽古風景の広がる道場。
 ・・・雨降って地固まると言うのか、アサシンとの激闘を見た子供達はセイバーを見直し、実に行儀良く稽古をするようになった。・・・子供は現金なのである。

 そして、もう一つ変わった事。

 「なぜ私がこんな事をしなくちゃならないのかしらッ」

 イライラしながら子供達の昼食を用意しているのは冬木市在住の主婦業キャスターさん仮名である。

 「本当に使えないわ、あのポンコツ侍っ」

 キャスターは零観さんの提案どおり道場の掃除と道具の手入れ、あと道場生の賄いを一ヶ月の契約・・・っと言うよりも罰ゲームでやらされている。
 バックレる気満々だったようだが、遠坂に今回の騒動の事を葛木先生にチクルと脅されて止む無くボランティアの名目でこなしているようだ。

 「坊やもただ見ているなら邪魔なだけよッ・・・暇なら手伝いなさいッッ」

 どうやら怒りがこちらに向かったようだ・・・まあ、暇なのは本当なので台所に入ると・・・

 ガラッ

 「お邪魔する」

 っと、ロビーに入ってきたのは件の葛木先生だ。

 「宗一郎さまッ、どうされたのですか?」

 キャスターが飛び出していった。

 「うむ、差し入れを持ってきた。零観は呼べるか?」

 葛木先生はそう言いながらクーラーボックスを掲げる。・・・中身はスポーツ飲料だろう。
 妻がお世話になってますっと言った所か。さすが先生は社会人として立派である。

 「はい、零観さんはまだお稽古が終わってないので、後での方が良いと思います。」

 キャスターはさっきまでの悪態が嘘のようである。この人もさすがに旦那の前では立派な奥さんを演じきるのだ。

 「そうか・・・お前は問題ないか?」

 先生は口数が少ないが、キャスターのことを心配しているのが十分伝わった。

 「宗一郎様・・・はい、とても良い経験になっています。」

 キャスターも感激したのか少し目が潤んでいる。

 「・・・そうだ、今作っている煮物、宗一郎様に味見を―――――」

 「ほう、煮物とはこの唐草模様の丸薬のことか?」

 キャスターの声を遮って現れたのはポンコツ侍、ことアサシン佐々木小次郎であった。

 「・・・な?」

 キャスターが放心している間に葛木先生はキャスターの持った小鉢から煮物を一つつまむ。

 「うむ、頂こう。」

 「おや、食すのか宗一郎?だが、拙者はご免こうむるぞ。いや、この身もまだ俗を望んでおってな。仏僧の様に苦行に身を投じようとは思わん故な、許せ。」

 アサシンはカラカラと笑い。キャスターは――――

 「佐々木ィィッッ!!」

 スクリュー気味のボディーブローをアサシンに叩き込んでいた。・・・前言撤回。この人はすぐにボロが出る。

 「げふぅぅ・・・」

 その場に倒れこむアサシン・・・口元から血反吐が飛び出しているのはセイバーとの試合の傷が癒えていない為だと信じたい。
 

 オオオオオオオオッッッッ!!!

 今度は道場の方から雄叫びと言うか、地鳴りが聞こえてきた。

 「な・・・なんだいったいッ!?」

 急ぎ道場の戸を開けると・・・そこに広がったのは戦国もかくやと言える槍兵隊・・・ではなく、長棒を構えた子供の群れであった。

 「タカシ、もっと肩を合わせなさい。ゲンジ、穂先を下げてはなりません。」

 「「はい先生ッ!!」」

 先頭で指揮して、見事な槍衾を作っているのはセイバーだ・・・

 「な・・・何やってんだセイバーッ!?」

 その声にセイバーも気がついて振り返る。

 「む、シロウ?稽古中です、邪魔してはいけません。」

 「いや、そうじゃなくて、子供達に何を教えてるんだ?」

 「何とは?練兵において集団訓練は必須です。」

 「れ、練兵ってなんだァッ!!」

 俺の突っ込みにセイバーは本気で不思議そうな顔をする。

 「うむ、それについては拙僧が説明しよう。」

 そして、何処からとも無く零観さんが現れた。

 「説明って・・・」

 「うむ、どうやらこの間のセイバー殿の活躍が効いたようでな。セイバー殿の故郷の兵法に子供達が興味が有るとの事なので、セイバー殿が教示しているのだ。」

 理路整然と無茶なことを零観さんは言う。

 「いや、どう考えたってこんな事は不味いでしょう?」

 ・・・てか、5世紀のイングランドの戦術にファランクス(密集陣形)なんて有ったのか?

 「いや、これでなかなか協調性を学ぶには適した教えでな。学校の先生などからもお褒め頂いている。」

 はっはっは、と零観さんは軽快に笑う。
 ・・・そうか、この人は肝が据わっているんじゃなくて、どこかズレているのかも知れない?


 「突撃ーーーーッッ!!」

 そんな俺を置いてけぼりにして、セイバーの掛け声と共に子供達の練兵は続く・・・


 そして、後に冬木の虎を上回る伝説として、マスターセイバーの名は遠く語り継がれるのだった・・・

 はい、ご完読ありがとうございます。

 あとがきですが、最初にお断りがあります。
 このSSはあくまでギャグです。一見シリアスに見える部分も全て都合良く出来ており、剣道のルールなども都合よく改竄しておりますため、あらかじめご注進申し上げておきます。

 ではあとがきですが・・・しっちゃかめっちゃかな作品ですいませんでしたっOTL
 以下あとがきと言うよりも言い訳文

 いや、最初は終始ギャグノリで最後のオチは小次郎はんの剣がアホ毛を掠めて黒セイバーがドカーンッてなるオチだったんですけど・・・何処をどう間違ったのかこんなバランスの悪いギャグ物になりましたw
 (いや、書く前にバガボンドを読んでたのが原因なんですが・・・)
 あと、黒セイバーオチを断念したのはセイバーに防具を付けさせたためです。
 そう、面をつけていてはアホ毛がなびかないのです・・・OTL
 でも、見せ掛けだけとは言ってもシリアスノリで行っていた為、セイバーがそういう形式を無視するのはどうかなーと思って腹ペコオチに急きょ変更w

 それと、小次郎が出歩いていたのはるーるぶっく読むときにも使ってた眼鏡の恩恵です。ティーチャー葛木に付いて来たのも同じ理由w

 総括としては、前後編にするなら前編の時点である程度後編の作りを考えておこうっと言うことと、一人称はやっぱり難しかったと言うことです。練習せにゃイカンな〜( ̄  ̄;)

 あと、コメント頂いた方。ありがとうございました&遅れてすいませんOTL
 楽しんでいただけたでしょうか?(^_^;



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