花芽吹き、新しい季節の陽気が温かく大地を包む日曜の朝、空を見上げれば吸い込まれてしまいそうな青空が広がる小春日和だ。

・・・だと言うのに、当衛宮家ではいつも通りの騒がしい朝食風景が広り、情緒と言うものはカケラも存在しない・・・

「しろーおかわりっ」
「シロウお代わりをお願いします。」

相変らずよく食べる虎と獅子。

「ねぇバゼット、その厚焼きたまご、食べないなら頂戴っ」
「食べないわけではありませんが。しかし、所望するのならば私はかまいませんがイリヤスフィール」
「何を言うのですメイガス(魔術師)っ・・・シロウの作った卵焼きを箸も通さずに人手に渡すとはっ・・・シロウ、お代わりをお願いします」
「・・・って言うかバゼット。いい加減みそ汁をごはんにぶっ掛けるのやめなさいよ・・・あと、スプーンと茶碗って言う組み合わせがありえないわ」
「いいんですよ姉さん。バゼットさんのは味噌を濃い目にして和風リゾットに仕上げてるんです。」
「シローおかわりっ」
「じゃあ、せめて茶碗をどうにかしなさいよっ」
「あら、そんな酷な事を言っては行けませんよ。バゼットがせっかくランサーからもらったプレゼントなんですから・・・クスクス」
「何を言うのですカレンっ!!・・・わ、私は別に初めてランサーから貰ったプレゼントだから使っていると言う訳ではなく、ただ・・・そうっ!!この国の食器は掬(すく)うのにも啜(すす)るのにも適した形状をしているから好んでいるだけですッッ!!」
「あら、ランサーにしては気が利いた事するじゃない?」
「そうですね、心のこもった道具ならば、それを使う行為自体にも愛着が沸くものです。」
「ですよねー。好きな人から貰ったものを離さないって、健気ですよね〜」
「だ、だからランサーから貰ったからでは・・・」

カレン「冬木で一つ♪」士郎「お碗が一つ♪」
カレン「若い二人が♪」士郎「誓った夜の♪」
2人で「「ほんとの♪愛の♪ものが〜たり〜♪」」

「ふふふ・・・そうですか士郎君・・・あなたまで馬鹿にするのですね・・・」

 し、しまったっ!!つい条件反射的に歌ってしまったっ!!
 
「ち、違うんだバゼットっ!!馬鹿にしたわけじゃなく・・・」
「アンサラーッッッ!!!(言い訳無用)」

 ひぃぃぃッッ!!問答無用ッ!?

 グシャッッ

 ・・・霞みゆく意識の中、頬骨を砕く拳骨の感触と、その後ろで邪悪に微笑む死兆星(シスター)の姿が脳裏に焼き付いていた・・・

 DEAD END
 タイガーどうじょうを受けますか?――――NO


 「あーーヒドイ目にあった。」

 まだ痛むアゴを氷枕で冷やしながら呟く。
 場所は自室の布団の上・・・情けなくもノックアウトされた俺は朝っぱらから布団の中へと戻っていたのだ。

 「その・・・本当にすいません。」

 横のバゼットは申し訳なさそうに縮こまってしまっている。

 「いや、オレも調子に乗りすぎたよ。お互いこれでチャラってことでさ」

 「はい、そう言ってもらえると気が楽です。」

 やはり元気なさげに答えるバゼット女史。しかし、これでこの一件は不問となろう・・・

 ガラッ

 「士郎、入るわよ」

 そんな俺の安心をかき消すかのように、声より先に戸を開ける傍若無人な「あかいあくま」が現れた。

 「先輩、氷枕の替えを持ってきました。」

 いやっさ、桜もいた。

 「サンキュ、桜」

 使っていた氷枕はまだ冷たかったが、せっかく桜が持ってきてくれたのでありがたく頂戴する。
 っと、その姉君におかれては、なにやらニヤニヤと笑みを浮かべている。・・・いかんっ!!公明の罠だッ!!

 「だけど、照れ隠しにストレートを叩きつけるなんて・・・今日日の執行者はワイルドなのね。」

 この気に乗じてバゼットをへこますつもりなのか、ホホホッなど笑い声が聞こえそうなほど高飛車な口調で喋り出す。
 ・・・昨日の夜、くしゃみの照れ隠しにスクリュー気味のボディーブローを俺に叩き込んだのは棚上げらしい・・・棚卸しをする日は来ないだろう・・・

 「そうですね。あのような蛮行、節度ある社会人が行うことではありませね。」

 何処からわいて出たのか、性悪シスターも現れた。

 「し、しかし士郎君との示談はすでに・・・」

 抗議しかけたバゼットだったが・・・

 「あら、私が言っているのは衛宮君への傷害事件ではなく、公共マナーの在り方についてなんだけど?」

 「まったくです。謝るだけで全て済まそうなんて、たいした倫理観ですね、バゼット。」

 ・・・大本の原因であるにもかかわらず尊大に語るあくま超人2人・・・
 バゼットは追い詰められた小鹿の様にさらに縮こまってしまった。
 あくま2人に弄ばれる哀れな子羊・・・そんなテーマが頭に浮かぶ様である。いや、子羊ではなくバッファローなのだが、イメージとして・・・

 しかし、いつまでも静観している訳にもいかない。ここらで助け舟でも出そうかと思っていた矢先・・・

 「桜、こちらでしたか。」

 今度はライダーが入ってきた。

 「あ、ご免ライダー。お弁当渡して無かったね。」

 桜はそう言って慌てた様に台所に走っていった。
 そうか、もうライダーもお店に行く時間か・・・

 「あれ?でも今日日曜じゃないか。」

 俺は素朴な疑問を口にした。

 「いえ、今日は大口の客が来られるとの事なので、臨時で召集を受けたのです。」

 キリッとした口調でライダーは言う。長身で理知的でメガネなライダーがそんなことを言うと、やり手のキャリアウーマンみたいだ。
 ・・・そう言えばイリヤがこのあいだバーサーカーと城の中で鬼ごっこをしたと言っていたな・・・がんばれ、セラッ

 「そうでした。私も活動を始めなければ・・・日曜だからと休んではいられませんね。」

 どうやら労働精神を刺激されたらしく、今度はバゼットが立ちあがる。やはり長身で、スーツをパリっと着こなし、泣き黒子なパゼットがそんなことを言うと、やり手のベンチャー企業の女社長みたいだ。

 ・・・まあ、骨董屋のアルバイトと就職活動な訳だが。

 「では士郎君、今朝は本当にすみませんでした。」
 「では士郎、行ってきます。」

 そう言い残して颯爽と去っていく美女2人・・・

 「暴力沙汰で滞在先(衛宮家)に迷惑をかけない様にね」
 「奉仕には慎ましやかな心が肝要ですよバゼット」

 追い討ちを忘れないあくま2人・・・

 「わかっています・・・っ」

 バゼットはこめかみに青筋を立てて、拳を固く握り締めながらも、ごく冷静に返答した。

 そして、あくま2人は簡単に獲物を見逃した。奴ら狩猟生物は知っているのだろう、追い詰めすぎた獲物の恐ろしさを・・・まあ、生かさず殺さずってのが精神的に一番きついんだけどな・・・

 「っと、俺もこんな所でいつまでも寝てるわけにはいかないな。」

 せっかくの日曜を寝て過ごしてはもったいない。特に予定は無いがそろそろ起きよう。


 ―――――さて、居間に行くと。ちょうど桜がライダーとバゼットに弁当を渡しているところだった。
 ん?しかしおかしな事に弁当は4つある。

 「はい、これがライダーのでこれがバゼットさんのです。・・・あと、こっちの大きいのは藤村先生とセイバーさんの分です。」

 「ありがとうございます、桜」
 「いつもすいません、桜さん」
 「わーいッ!!あっりがとう、桜ちゃんッ!!」
 「ありがとうございます、サクラ」

 どうやら藤ねえとセイバーの分らしい。

 「あれ?セイバーと藤ねえ、何処かに出かけるのか?」

 言ってくれれば弁当作るの手伝ったのに。 

 「あっ・・・そう言えば士郎は遠坂さんにノックアウトされて、昨日の話を聞いてなかったわね。」

 「昨日の話?」

 確かに昨日は「にゃッぷしっ」なんて言うくしゃみを聞いてしまったがためにブラックアウトオチになってしまって、その後の会話は聞いていない。

 「はい、実はタイガの紹介で仕事を一つ頂きました。」

 セイバーは誇らしげに胸を小さく張りながら語る。
 横ではバゼットが女社長の顔から失業者の顔へと転げ落ちている。

 「そうか、藤ねえの紹介か・・・でもセイバー、本当に家計のことなら気にしなくていいんだぞ?」

 セイバー自身が働きたいのならともかく、気を使かわせてしまっているのなら話は別だ。

 「いえ、シロウ。私の最大の責務はあなたを守ることにある。しかし、それは有事の際の事・・・平時においては自身の出来る範囲で可能性を試すのも有意義なことだと考えを改めたのです。」

 ・・・正直、ちょっと嬉しい。セイバーが色々可能性を試したいと言っている。それは、この世界を本当に楽しんでいる証拠だからだ。

 ――――――楽しみ(ヨク)が無くっちゃつまらないからな。

 ・・・誰かが呟いた気がした。

 「そっか、それじゃあがんばれよセイバー」

 「はい、シロウ」

 良い返事をするセイバー。
 ・・・まあ、セイバーなら責任持って仕事をするだろう。なにも心配は要らないが、一応・・・

 「ところでセイバー。仕事って何をやるつもりなんだ?」

 「はい、剣術の指南です。」


 セイバー道場(タイトル)


「――――――ここか?」

 型月会館と書かれた木製の立派な看板を見ながら呟く。

 「そうそう、ここここっ・・・たのもー―っ!!」

 にこやかに弾む声でかまう事無く引き戸を開くタイガー・・・

 「行きましょう、シロウ」

 セイバーは実に落ちついた風で、藤ねえの後についていく。・・・しかし、あほ毛がピコピコと動き、内心嬉しそうである。

 ・・・・・・結局、心配でついてきてしまったのには訳がある。


 「剣術の指南・・・って、資格が要るんじゃないのか?」

 セイバーのバイト話を聞いた後、そんな当然な疑問をぶつけた俺にセイバーは・・・

 「そうなのですかタイガ?」

 などとのたまい・・・

 「あっははは・・・気にしなくて良いわよそんな事・・・私塾みたいな所だから身元さえしっかりしてれば大丈夫。」

 虎は実に楽観的である・・・
 さすがに保護者として看過できないものが有ったのも仕方の無いことと言えよう・・・
 閑話休題


 「失礼します。」

 っと俺もセイバー達に続いて門をくぐる。
 入口すぐは簡易ロビーのような所で、事務窓口と椅子、大会や何やらのポスターがベタベタと貼ってある。すでに道場の音が聞こえてきており、エイ、ヤー、トウっと言った感じの掛け声やドンドンッバシバシッと竹刀の打音や踏み足の音が騒がしく響いている。

 藤ねえは立ち止まる事無く、そのまま奥の剣道場と書かれた扉を開け放ち・・・

 「たのもー――ッッッ!!」

 実に元気(メイワク)な挨拶をかました。

 道場の中では、20人くらいの子供達が何事かと目を丸くしてこちらを見ている。
 それは大人も例外ではなく、指導員であろう大人3人も驚いた表情で手を止めている。・・・いや一人、気にする事無くにこやかな笑顔を浮かべる人物がいる。

 「おや?三代目。相変らず元気が良いですな」

 はっはっは、と気さくに笑う御仁は・・・

 「やっほー零ちゃんっ!!約束通り剣の達人を連れてきたわよッ!!」

 柳洞寺の文武両道、泰然自若、酒盛上等のパーフェクト生臭坊主、零観さんであった。

 「おおっ!?あの話は本気でしたか。いや、酒の席での話だったので話半分に聞いておりました。」

 まいったまいったと爽やかに笑いながら零観さん。・・・とりあえず虎にアポをとると言う発想が無いことは判った。

 「藤ねえ・・・ちゃんと先方に伝えてなかったのか?」

 とりあえず零観さんが道場にいるのは驚いたけど納得した。あの人ならロイズの交渉人やSAS(イギリス特殊空挺部隊)の軍曹をやってたとしても俺は驚かない。
 そんな事よりもアポなしでは流石の零観さんと言えども困るだろう。

 「え〜〜零ちゃん、剣の達人に会いたいって言ったじゃん。」

 「おい、藤ねえ。あんまり迷惑をかけるなッ」

 そして駄々をこねるな虎。ほらっ零観さんも困って・・・

 「あい、判ったッ!!」

 ・・・ない。

 「冬木の虎に達人と言わしめるほどの人物・・・この零観、責任を持って先生に推挙しましょう」

 零観さんは実に頼もしく胸を叩く。

 「やった―っ!!さすが零ちゃんッッ」

 っと虎。

 「ご迷惑をおかけする様ですが、お願いします。」

 っとセイバー。

 さすが零観さん。実に頼もしいが・・・

 「良いんですか?先生もいないのに?」
 「大丈夫なんですか?あの冬木の虎の紹介ですよ?」

 っと、後ろの2名の不安は消せない様である。さすが悪名高き冬木の虎・・・ことオレの姉貴分・・・

 「えーと、じゃあこちらの道場主はいないんですか?」

 とりあえず話を進めようと切り出す。

 「うむ、先生は法事のため空けている。その間はこの不肖零観が留守を預かっているのだよ。・・・そう言えば一成も午後から来ることになっているから、士郎君も一汗かいていくかい?」

 「いや、俺は結構ですけど。道場主不在のまま雇用を決めちゃって良いんですか?」

 「うむ、手伝いを募っていたのは事実だ。藤村君の紹介ならば先生も心配は無かろう。」

 「いや〜それほどでも///」

 テレるな虎。

 「それでは、期待を裏切ること無い様、励まさせていただきます。」

 こうして、セイバーのスピード就職は成ったのだった。


 それから、1ヶ月後・・・


 「衛宮君、それセイバーのお弁当?」

 「ああ、これセイバーに渡したら、帰りに買い物してくるから昼のリクエストが有ったら言ってくれ。」

 日曜の午前、俺はセイバーの弁当を作っていた。
 結論から言うと礼儀正しく、真面目なセイバーは道場主に気に入られて、週7つ全ての稽古に指導員補佐として参加している。
 稽古は日曜は朝9時から有るのでセイバーは朝食後すぐに家を出ている。だからお昼の弁当は、こうして俺が作って持てっているのだ。

 「しかし、頑張るわねセイバー。うまくやってるようじゃない?」

 遠坂は素直に感心している。

 「まったくです。・・・バゼット、あなたも見習ったらどうですか?」

 あくまシスターは机の上に突っ伏して動かないバゼットに話を振る。
 バゼットは先日、ヴィルデ8Fのテナントゲームセンターで働いている最中、UFOキャッチャーをガラス窓ブチ破って道路に落してクビになったのだ。

 「・・・・・・」

 返事が無い、ただの屍の様だ。
 閑話休題


 「じゃあ、オレ。セイバーに弁当届けてくるから。」

 ようやく完成した弁当を袋に包んで立ちあがったとき・・・

 ピンポーン

 来客が来た様だ。

 「は〜い」

 桜が小走りに玄関に向かう。

 ガラッ
 「あら桜さん、こんにちは。・・・セイバーは居るかしら?」

 随分乱暴な引き戸の音と共に聞こえてきたのはキャスターの声である。

 「え、セイバーさんなら出かけてますけど?」

 「なら、マスターの坊やで良いわ。」

 そんな問答が聞こえた後に、今度はドカドカと歩いてくる音が聞こえ、それが襖の前で止まる。

 ガラッ
 「ちょっと坊やッ!!セイバーが私の所に来ないんだけど、一体どう言うことッ!?」

 開口一番、怒鳴り声を上げるキャスター。

 「ど・・・どう言う事って?・・・どう言う事?」

 さすがに意味がわからず聞き返すと、キャスターは異常な剣幕でまくし立てる。

 「だから、セイバーが私のモデルのアルバイトに来ないのよッ!!・・・あの子、そんなにお小遣い多いわけじゃないんでしょ?しばらくしたらまた来ると思ってたんだけど・・・もう1ヶ月も姿を見せないのよッ!!」

 ・・・よく判ったような判らないような・・・

 「まあ、とにかくセイバーがおこずかいを必要としてないのは仕事をしてるからだ。」

 「仕事?・・・仕事って何よ?」

 「あれ?零観さんに聞いてないのか?・・・セイバーは今、新都の型月会館で指導員の仕事してるんだけど?」

 「へッ?・・・指導員?」

 「ああ、子供の道場生が増えてきて指導員を募集してたからって・・・」

 「・・・なるほど、そう言う事・・・」

 やけにあっさりキャスターは納得した。
 しかし、騙されてはいけない。キャスターは断じてセイバーを諦めてなどいないのだ。
 何故ならその顔は「ふふふ・・・そうなんだ。」と小声で呟きながら目は笑っていないのだッ!!

 キャスターはひとしきり思案した後、おもむろに立ちあがった。

 「あら、わたしったら急用を思い出しちゃった。それじゃ、ごめんあそばせッ」

 などと不自然極まりない言動の魔女は、すたこらと家を出ていった・・・


 「・・・衛宮君。サーヴァントの問題はマスターの問題よ・・・」 

 遠坂の何処か呆れたような言葉・・・

 「ああ、分かってる・・・」

 俺も力無く頷いていた・・・



 さて、とりあえず弁当を持って道場へとやって来た。
 ・・・キャスターが何を企んでるかは知らないが、セイバーに伝えて対策を練る必要がある。

 「失礼します。」

 藤ねえとは違い、稽古の邪魔にならないよう静かに道場の戸を開ける。
 ドンドンッバシバシッ、エイ、ヤー、トウッと、道場内は実に元気な稽古風景が広がっている。

 さて、セイバーは・・・いたッ。乱取りをする小学上級生の少年たちの横、基本稽古をしている低学年生たちを指導している。

 セイバーは白い道着をピシッと着込み、真剣に生徒の指導に励んでいる。

 「いけませんケンタ。構えが乱れていますよ。」

 セイバーが注意している少年はつまらなそうに竹刀をブラブラと振っている。

 「だってつまんね―もんッ、僕も早くチャンバラやって強くなりたいッ」

 ・・・どうやらケンタ少年は素振りや足捌きのみの基本稽古に嫌気がさしているようだ。

 「ならばなおさらです。正しい心構えと体捌きを無しに大成はしません。生兵法は怪我の元です。貴方はまず正しい呼吸法と正眼を学ぶべきです。」

 セイバーは実に正鵠を射た答えを返すが、少年にそんな言葉が通じるはずも無く・・・

 「やだよッそんなんで強くなれるわけねーよッ!!」

 だだっ子を増長させただけであった。

 「成れます。私が保証します。」

 それでもセイバーは真摯に答える。しかし、少年の目にはそうは映らず・・・

 「信じらん無いッ」

 「・・・何故です?」

 「・・・ねーちゃん、強そ―に見えないもんッ」

 決定的な言葉だった・・・さすがのセイバーも返答に窮してしまっている。
 実はセイバーは午後の大人の部では、もはや文句なしの実力ナンバー1の名誉を受けているが、午前の子供の部ではセイバーが試合をする事など無く、小柄なため、少年たちの尊敬を受けづらい立場にあったのだッッ

 うむ、強さへの憧憬が強い少年たちにはしょうがない事なのかもしれないが、ゲンコツで言う事を聞かせる、なんてのはセイバーのキャラじゃない。・・・まあ、俺はしばかれた訳だが・・・

 「なるほど・・・畏敬に足る人物の言葉でなくては従えませんか・・・」

 セイバーがわりと真剣に考えていると・・・

 「止めッ」

 零観さんの号令が聞こえ、乱取りをしていた少年たちは一斉に剣をしまう。

 「よーし、いったん休憩にしよう。防具は取らないように」

 零観さんはそう言いながらセイバー達の方に向かっていった。
 ・・・今日も先生は出かけているようで零観さんが助っ人で指導しているのだろう。

 「はっはっは・・・さすがのセイバー殿もわんぱく坊主に手を焼かされている様ですなッ」

 面をつけていながらでもよく透る声で零観さんは実に頼もしくフォローに来てくれたのだった。

 「あぁレイカン・・・すいません、私の指導力不足の様です。」

 セイバーはやはり生真面目に答える。

 「いやいや、その年頃の男子は皆生意気に出来ているものです。私などから言わせれば、セイバー殿に逆らうなど、なかなかに骨の有るヤンチャです。」

 何気に空恐ろしい事実を混ぜながら零観さんは軽快に笑っている。

 「ねぇ柳洞先生、僕も早くチャンバラがやりたいッ!!」

 ケンタ少年はややトーンを落しつつも懇願する。彼の中の序列では当然、零観さんは上位に位置するのだろう。

 「うむ、道を急く気持ちは十分に伝わった・・・ならば、早くセイバー殿の認可を得て、兄弟子たちと肩を並べるが良いぞ。」

 「うーん・・・」

 今度はケンタ少年が言葉に詰まり、納得せざる得なくなったようだ。

 さて、これにて一件落着かと思われた時・・・


 「――――――さて、セイバーのマスターよ・・・見物ならば戸の奥からでは無礼ではないのか?」

 突如後ろから声が聞こえてきた。

 「うわぁぁッッ!?」

 あまりに突然の出来事に前につんのめってしまい、思わず扉を開きながら倒れこんだ。
 そして、痛みも忘れて急ぎ後ろを確認すると、そこにいた人物は・・・

 「アサシンッ!!」

 暗殺者のサーヴァントにあてがわれた達人、佐々木小次郎その人であった。

 「む?すまない、驚かせた様だな?」

 小次郎はいつものマイペースさで泰然自若としているが・・・それは異常自体である。本来、山門から動けないはずのアサシンがどうしてここに居るのか?

 「アサシンッ!?何故ここに?」

 後ろではセイバーも気づいたらしく、驚きの声を上げている。

 「おぉ?小次郎殿ではないか?・・・士郎君も、珍しい組み合わせだな」

 零観さんも珍客としてアサシンに驚いていた。

 「零観殿か・・・しかし、其処な小僧と同伴と言うわけで無い、拙者にもこの道場に用向きが有ったのだが、ここは零観殿の道場かな?」

 アサシンが居ることが不思議なら、その目的もまた不明である。零観さんにも心当たりが無いのか、頭を傾げている。

 「いや、先生が不在の為、私の預りとなっているだけだが・・・一体何用かな?」

 零観さんの問い・・・アサシンは少しも変化する事無く淡々と・・・

 「知れたこと・・・看板を貰い受けに来た。」

 ――――――とんでもない事を告げた。


 場の空気が変わった・・・
 その態度はいつも通り飄々としたものだが、その目が物語っているのは、その言葉に嘘偽りが無いと言う事だ。

 ・・・本気なのか?
 俺が身構えていると、零観さんの軽快な笑い声が聞こえた。

 「はっはっは・・・冗談はおよしなさい。お主が欲すると言うのなら諸手を上げて差し出さねばならぬだろうが・・・よもやそのような事が目的ではあるまい?」

 零観さんの言葉で俺も合点がいった。
 そうだ、俺は何のために来たのか・・・キャスターが持つ切り札こそこの男・・・その目的は当然・・・

 「ふっお見通しであったか・・・左様、拙者の目的は其処な獅子だ・・・」

 「・・・なるほどな」

 「・・・私ですか、アサシン?」

 全てのカラクリが解けた。キャスターはセイバーの雇用を賭けてアサシンと勝負をしろと言ってきたのだ。
 そして、この稀代の剣士は、その刃よりも鋭い眼光をセイバに向け・・・ 

 「然り、仕合うてもらうぞセイバー・・・」

 ・・・凍てつくほどの殺気を放つ。

 小次郎はセイバーへと歩み出した。・・・俺ではこの2人の戦いは止められない。何とかセイバーに勝ってもらうよう願うしか道は無いッ・・・しかし、そこに颯爽と割り入った人物がいる。

 「またれいッ」

 パーフェクト坊主、柳洞零観師範代である。

 「セイバー殿は当道場の預り。先生が居ぬ間に如何こうさせるわけには行きませぬな・・・」

 零観さん程の人ならアサシンの実力は知っているはずだ。なのに、敢然と立ち向かい、その行くてを阻んでいる。

 「ほう・・・ならば如何いたすと言うのだ?」

 「・・・まずは、拙僧と立ち会っていただこう。」

 言いきったッ・・・魔剣士小次郎に対して零観さんは言い切って見せたのだッ

 「いけませんッレイカンッ!!」

 セイバーが止める。

 「そ・・・そうですよッそれなら俺が・・・」

 俺も手をこまねいて見ている場合では無いッ・・・例え役に立たなくとも何かをしなくてはッ!!

 「いや、2人とも口出し無用に願おう・・・これは道場を任された私の責務として当然の事・・・」

 零観さんの決意は固かった。

 「いいだろう・・・拙者も余興が有った方が愉しめる。」

 アサシンは涼やかに答え・・・ここに、人間対サーヴァントの異種剣技戦がなったのだッ


 「ン?」

 俺が固唾を飲んで状況を見守っていると、後ろにはいつのまにか遠坂が来ていた。

 「まったく・・・心配で見に来たら。一体何やってんのよ?」

 「・・・今、零観さんとアサシンがセイバーの雇用を賭けて勝負するところだ。」

 冷静に聞くとどうもアホらしい勝負の理由に、あかいあくまは・・・

 「バッカじゃない・・・」

 身も蓋もないことを言ってくれましたとさマル

 以下次号ッ!!

ハイ、これにて前編終了です。・・・長ぇ(汗

ちょっと予想よりも長くなったので前後編になります。
最後は無理やり凛にオトしてもらいましたOTL
・・・これでも色々エピソードを削ってるんですよ。
「解き放たれた虎竹刀」「ダメットさんのゲーセンバイト顛末紀」等

内容的には主役のはずのセイバーが異常に影が薄いという欠点を持ちます。
零観さんが書いてて実に味のあるお方だったもので・・・はっはっはっ
ティーチャー葛木と零観さんとコジローの酒盛りとか見たいっ
さらに虎とネコが混じって、キャスターはお呼ばれしてない為、入れずにヤキモキする。・・・萌え

しかし、柔術家零観を勝手に剣道家にしてしまいましたが、あの人、武芸全般やってそうなので違和感無いかなーと言い訳。
当初は藤ねえの学生時代の後輩をオリキャラで出そうと思ってました。・・・「勘弁してくださいよセンパイッ」って感じのへタレキャラ。
まあ、零観さんのほうがキャラが立つので・・・

しかし、一人称での物語り構成は実にしんどかったです。
描写やら何やらが難しいのなんのって・・・読みずらい箇所が多くてすいません。
感想とか指摘などあったらコメント頂けると嬉しいです。

そんなこんなで次回に続きます。

―――強敵にも臆することなく敢然と立ち向かう我等が零観ッ!!
策動する魔女の陰謀が剣士たちを翻弄し、運命の渦に巻き込んでいくッ!!

・・・そして、あかいあくまは微笑む。全ての事象を嘲笑うかのように・・・

次号、「暗黒剣風魔界 煉獄編 完結」乞うご期待ッ



もし感想などあったらコメントを頂けるとうれしいです

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