――――――そうして、二人の侵入は果たされた。

 薄暗く長い廊下。その先を仄かなピンク色の蛍光色の光が間接照明で照らし出している。
 風は無く、完全に閉じられた間取り。
 空調が効いているのか、廊下には涼やかな冷気が満ちていた。
 しかし、侵入した二人の額には大粒の汗が浮かんでいる。
 緊張のためだ。
 そして、喉の中は乾き。粘着質になった唾液を嚥下する音が静かな空間に響く。

 「慎二・・・」

 強い声が響く。足は震え、拳には力が入らぬと言うのに、その声だけは強くあった。

 「ああ・・・」

 返事が返る。言葉は短くとも、その一言だけで、男たちは繋がる事が出来た。

 「「行くぞッ!!」」

 決意は胸にある。戦いはこれからだ。
 男たちは振り返る事は無い。彼等こそはスターゲイザー(夢追い人)なのだから・・・

 薄暗い廊下を並んで歩く。その先に見える希望を信じて。
 そして、突き当たり。そこにあったのは扉。
 ためらう事無くノブが回される。・・・その先にあったものはッ


 狭いロッカールームに

 ――――――――――「服を脱いでください」・・・と書かれた立て札。

 ・・・・・・・・・・・・。

 「トレース・オンッッッ!!」

 「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ・・・」

 突然、士郎は撃鉄を落とし、慎二はトリップしだしてしまった。


 しばらくして・・・

 「はぁ、はぁ・・・あまりの展開に思わず投影を開始してしまうところだった・・・」

 額の汗を拭いながら士郎が息を落ちつかせる。何を投影しようとしたかは敢えて問うまい。

 「はぁ、はぁ・・・僕とした事が少し取り乱しちゃった様だよ・・・」

 慎二も荒い息を何とか落ちつかせる。しかし、慎二がテンパるのは割りと珍しくは無い。

 そして、なんとか息を整えた二人は、目の前のロッカーに手をかける。

 ゴクリッ・・・

 誰とも無く唾を飲む音が木霊する。
 脂汗が戻り、ドクンドクンと心臓の鼓動もそのリズムを上げ出す。
 ここより先に進めば後戻りは出来ない。もし、まだ選択肢があるとすればここを置いて他には無いだろう。
 その思いが二人にしばしの間を与えた。

 しかし、互いに止まった戦友(とも)を見て、双方どう思ったのか・・・

 戸にかける手にはしだいに力が戻っていった。
 高鳴る鼓動は力強さの証明に変わる。
 汗も止み、息は静かに・・・
 その瞳には光り輝くもの・・・

 もはや迷いは消えたのだろう。
 二人だからこそ進む事が出来た。
 二人だから迷いを断ちきれた。
 その心は一つ・・・ 

 ――――――俺達の夢見た理想郷

 ロッカーの戸は、同時に開かれたッ


 ・・・中に置いてあったのは股間部にサクランボのアクセサリーの付いた全身タイツ・・・

 「「なんでさッッッ!!??」」

 叫んだ声も同時であった・・・


 ・・・・・・5分後、腰に2個の実のサクランボを取り付けた全身タイツと言う、いかがわしいを通り越して下品な男二人がいた。

 「いくぞ慎二」

 「ああ・・・」

 ものすごく誇らしげな男前の顔で頷き合う二人。・・・でも全身タイツ。

 目指すはエデンへの扉である。
 ロッカールームの横には「ここからお進みください」と書かれた黒塗りの扉がある。
 ・・・まちがいない。この先に楽園はある。

 士郎も慎二も迷い無く、ただ真っ直ぐに扉を見つめ・・・その一歩を踏み出していた。

 ――――――――――――――――――

 ガチャッ・・・・

 見た目よりも軽いプラスチック製の扉が開かれた。

 「・・・・・・」

 室内だと言うのに太陽のような眩しい光に目を覆う。
 だから、この鼻腔をくすぐる甘い香りが何なのか、最初は分からなかった。
 耳を澄ませば楽しげな少女たちの声が風にのって流れてくる。
 鈴の音を鳴らすような涼やかな笑い声とソプラノの甘いささやき声。
 そして、光に慣れ始めた瞳が最初に映したのは風に舞う花びら・・・

 ふんわりとした春の風と果実のような清涼な芳香。
 体を包む優しい春の陽気、聞こえてくる音は花たちの戯れ・・・

 そう、桜舞うこの桃源郷(せかい)で・・・

 ――――――――――美綴実典は立ち尽くしていた。

 「・・・ここは?」

 突然の天国の出現に実典は1人呟いた。
 しかし、誰にとも無く呟いたその問いに、答える声がある。

 「チェリーハントにようこそ。本日はお一人様ですか」

 まだ目をしばたかせる実典の前にはおぼろげな輪郭が映る。

 桜舞う春の園に立つその人影は、まるで絵本の中の妖精のような可愛らしい服に身を包んで、実典に笑いかけている。
 その服の色はやはり柔らかな桜色。

 実典は・・・その姿に一瞬の忘我を覚える。
 丁寧にお辞儀をしながら女性が微笑むと、その拍子に赤色のリボンが風に揺れて、まるで本当に櫻の精が目の前に現れたかのような錯覚に陥ったのだ。
 しかし、ここは桃源郷。その認識は決して間違いではないのかもしれない。
 現に、目の前に広がる満開の桜と甘い果実の芳香が少年の意識をゆっくりと彼岸の彼方へと誘っている。

 だが、そんな夢心地になりながらも、実典は目の前の人物が誰かは分かっていた。
 そう、見間違えるはずが無いのだ。
 柔らかな光をたたえるその瞳と艶やかな紫髪に飾られた赤いリボン。
 声も幼く、ともすれば自分よりも年下に見える程あどけない面影の残る容姿。
 しかし、弓を教えるときは精一杯厳しく、真剣になる頑張り屋の先輩。
 それを、見間違えるはずが無かった・・・

 ――――――少年の想い人である、間桐桜その人である。

 「・・・・・・部長?」

 実典はようやくの事その言葉だけを搾り出した。

 「あ、実典くんだ。嬉しい、ホントに来てくれたんだね」

 桜は本当に花のような笑顔で少年の来園を歓迎した。

 「あ・・・え、と・・その」

 おかしい・・・実典は桜に会った時の為に用意しておいた言葉があったはずだ。しかし、その顔を見た瞬間から口からは目的の言葉が出てこない。
 否、何を言うべきだったのかすら頭から抜け落ちてしまっている始末だ。

 「その、今日は良い天気・・・じゃなくてッ――――――」
 「お、少年ッ!! こんな所で会うなんて奇遇だな。」

 突然、実典の声を遮って現れたのは自称穂群の黒豹率いる陸上部三人娘であった。

 「ほう、奇遇と見るのか蒔。私からすれば至極当然だが・・・まあ、タイミングが良いのは確かだな。」
 「あ、実典くん間桐さんおはよう。」

 思い思いの挨拶をする先輩諸氏方。まともな者が一人しか居ないのは良いバランスと言えるのだろうか?

 「な、何で先輩たちが・・・?」

 「そんなの遊びに来たに決まってんじゃん。」
 「うん、せっかくだから遊びに来たよ間桐さん。」

 唖然とする実典。
 ほにゃっとした笑顔と共に三枝嬢は花柄のチラシを桜に見せる。それは、桜が学校で配ったアトラクションのチラシだった。

 「あ、わざわざありがとうございます。来て頂けたんですね。」

 桜は微笑みながらチラシを受け取った。自分の宣伝の効果が上がるのはうれしい事である。
 一方、実典少年はまたぞろ性質の悪い先輩に捕まっていた。

 「ほう、初日に足を運んだか・・・君にしては機敏な判断だが、こういうものは仕事上りの時が狙い目だぞ?」
 「・・・何の話ですか、何の?」

 どうにもいらんお世話焼きの先輩にジト目で反論しながらも、完全に機を逸したことを悔いる実典。
 しかし、少年の災難はまだ終わっては居なかった・・・

 「げっ実典じゃん。なんだよ、お前まで来てたの?」

 彼の実の姉、実綴綾子嬢の登場である。
 そして、彼女の嫌がるわけは、もちろんその服にある。

 「姉ちゃん・・・年、考えろよ・・・」

 身内の事になれば、さしもの少年も現実を直視しなくてはならない。

 「う、うるさいなッ・・・従業員の制服なんだからしょうがないだろ」

 妖精姿の綾子は弟の心無い言葉に猛烈に反論する。
 しかし、実際は彼女の妖精姿は似合っていた。ダークブラウンの妖精服にライトブラウンの髪の色が丁度良いコントラストとなって、むしろ彼女の健康的な美しさを際立たせている。
 だから、彼女の姿は奇天烈なわけでも恥ずかしいわけでもないのだ。
 そう・・・本当の脅威とは――――――

 「そうよ〜弓道部の子達は手伝いだからしょうがないのよ。それに、美綴さんの妖精姿は似合ってるじゃない。」

 虎柄のことを言う・・・

 「ふ・・・藤村先生ッ!? その・・・あ・・・いたんですね・・・」

 少年はなんとか服へのツッコミを耐えた。
 せっかくの休日を虎追い祭りには変えたくは無いから・・・

 しかし、藤村教諭のファッションは、逆に少年を現実へと引き戻した。
 とりあえず、少年は落ち着いて状況を整理する事にした。
 今、自分がいるのは間桐先輩の主催するチェリーハントである。
 みんなの服はそのアトラクションの制服である。
 氷室先輩方に見つかったのは事故である。
 自分が来た目的は弓道部男子を代表した挨拶である。

 「あ・・・そうだった。」

 ようやく実典は自分の目的を思い出した。

 「そう言えば俺、弓道部の代表でお祝に来たんです。」

 そう言いながら実典は用意してきたお祝い品の醤油煎餅を桜に手渡す。

 「わぁ、ありがとう、みんなにもお礼言わなきゃね」

 桜は少し恥ずかしそうに受け取って微笑む。

 「え・・・いや、たいした事じゃないですし・・・別に礼を言われるほどじゃ・・・」

 実典は赤くなってそっぽを向いてしまう。
 
 実にほほえましい青春風景だが、桜色の妖精の手元に抱かれた包装もされていない醤油煎餅の袋には少しセンスが欠けている。

 「ふーん、最近の子達は律儀なのね。かんしん、かんしん」

 そんな空気を物ともせずタイガーは桜の手元の醤油煎餅に物欲しそうな視線を送る。

 「でも、他の子達は何で来なかったの?」

 別に興味もなさそうに藤村教諭が問う。しかし、その思いは既に花より団子である。

 「あ、はい。大勢で押しかけたら迷惑がかかるだろうからって・・・」
 「はっ良く言うよ。 大方、めんどくさいから実典に全部おっぽり投げたんでしょ?」

 綾子は実に的確に男子たちの心情を捉えていたが、実際問題としてこの姿を見られなかったのは僥倖であると安堵もしていた。

 「でも、まあ〜忙しいのは本当だし・・・ほらほら、あんたたちも玄関口でぼさっと立ってない。ほかの客の邪魔だよ。」

 綾子はそう言って三人娘を急き立てる。

 「何だよその口調ッ!!お客に向かって言うセリフかッ!?」
 「蒔、暴れるな。営業妨害だぞ。 それじゃあ美綴嬢、すまないが案内を頼む。」
 「うん、それじゃ先に言ってるね実典君。間桐さんも頑張ってね。」

 姦しく騒ぎながらも喧騒は去っていった。・・・むろん、年長の彼女等が少年に気を遣ったのは言うまでも無い。

 ちなみに、タイガーも醤油煎餅を持って上機嫌に桜並木に歩いていった・・・元部長が慌てて追いかけていったのは言うまでも無い。

 実典はやれやれと皆の働きぶりを眺める。
 そして、改めて園を見渡すと、アトラクションは実に大盛況である事がわかった。

 休日と言う事もあり家族連れが大半で、サクランボを取る親たちの周りを子供達がせわしなくはしゃいでいたり、桜の木の下では多勢の人たちがサクランボを食べながら花見に興じている。
 景観も実に良く出来ている為か、カップルの姿も多く見える。
 しかし、さすがに男1人での来園はいないようだ・・・

 「あの・・・俺、邪魔な様ですし帰りますね。」

 実典はもう1人残った人物。受付係りの桜にそう切り出した。
 姉が気を利かせて他の人たちを連れ出してくれたが、少年にはそのチャンスを活かす自信が無かったのだ。

 「え、何で? せっかくだし実典君も見ていかない?」

 桜は不思議そうに首を傾げる。

 「いや・・・でも、男1人で来てる奴なんて居ないみたいですし・・・」

 実典はまた気まずそうに園内に目をやる。
 確かにこの空間に男1人ではいたたまれない。さりとて、これ以上桜の仕事を邪魔するわけにも行かないだろう。
 しかし、だからこそ次の言葉に実典は驚いた。

 「あ、そうか。 じゃあ、私が案内してあげるから一緒に周ろうか?」

 「―――――――――え?」

 それは望外の提案だった。

 「い、いいんですか?」

 いくらなんでも桜にも仕事があるはずだ、1人の客につきっきりで応対は無理だろうと思うし・・・何より、二人で周ると言う事は、実に大きな意味を持つ。

 「うん、私これから休憩だし。折角だから案内するね。」

 問題は無い・・・あとは実典が頷くだけでその奇跡にあやかる事が出来るのだ。しかし・・・

 「アイツ・・・衛宮先輩はいいんですか・・・?」

 ―――この不器用さも少年らしさなのである。

 桜がわざわざこの時間に休憩時間を取ったのは他でもないだろう。先ほど会ったアイツのため以外無い・・・
 そう分かりつつ、この幸せに手を伸ばせる少年ではなかった。

 「えっ知ってたの?」

 桜は顔を赤くして驚く。

 「・・・・・・」

 っが、実典は答えない・・・ただ、押し黙ってしまう。
 正直、あんな男に気兼ねをしているつもりは無い。
 ただ、アイツを待っていただろう彼女の気持ちを考えると、本当のことを言えなくなってしまう。

 そんな実典の真意が読めず、桜は朗らかに笑ってかぶりを振る。

 「う〜ん・・・なんか先輩、来れないみたいだからしょうがないよ。電話しても出ないし・・・忙しい人だから、多分用事が出来ちゃったんだね。」

 そう言う顔は笑っているのに何処か寂しそうだ。
 それに実典は、さらに言葉を詰まらせてしまう。

 「あっ!! もちろん実典君も忙しいようなら断っていいんだよ。ごめんね、無理やり誘っちゃって。」

 黙る実典の様子を勘違いした桜が慌てて謝る。

 「ち、違いますっ!! 先輩と一緒なら―――――――ッッ」

 慌てた実典は思わず大きな声で叫ぶ。
 しかも、後半は大変な事を口走りそうになり、急いで口をふさぐ。

 「・・・なら?」

 しかし、桜は無自覚に実典を追い詰める。

 「な、なら・・・も・・・もちろんご一緒させていただきます・・・」

 なんとか首をありえないくらい捻りながら伝える。これでも無難な言葉を選んだつもりだが、それでも普通ならバレるだろう。

 しかし、桜は気づいているのか気づいていないのか優しく微笑んで。

 「本当? じゃあ、一緒に行こうか?」

 ―――そっと手を差し伸べた。

 桜舞う桃源の世界で優しい笑顔が眩しく映る。
 差し出された掌は、本来自分に向けられるはずではなかったものだ。
 しかし、それを掴むのを惨めだと思うだろうか?
 そして、その掌が向けられた意味を嘘だと思えるだろうか?
 それは、言うまでも無い事だろう・・・

 春を謳うこの箱庭で、少年は真っ直ぐに少女を見つめ・・・

 「――――――はい」

 その手をしっかりと握っていた。

 ――――――――――――――――fin



 ・・・な訳が無い。


 「やっちゃえバーサーカーッ!!」

 「■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!」

 「キャーッ!! イリヤさん根っこごと取っちゃダメ―――ッ!!」

 灰色の巨人がサクランボの木を文字通り根こそぎ持ちかえろうとしたり・・・



 「園内は火気厳禁です。なお、アルコール類の密輸も処罰対象となります。」

 「キャーッ!! バゼットさん腕まくりして何する気ですかッ!?」

 ガラの悪い客を威圧する妖精姿のボディーチェッカーなぞがいたり・・・



 「もくもく、もくもく」

 「キャーッ!! セイバーさん、商品を食べちゃダメ―ッ!!」

 「サクラ、この木の実は若干渋みが残る。客にはあちらの木を優先的に斡旋すべきです。」

 すごい勢いでサクランボを食い荒らす自称品質管理人がいたり・・・

 ・・・・・・まあ、主催者には落ちついた休憩時間など与えられようはずも無い。

 ――――――さらに

 「ほう、本当に同伴するとは・・・しばらく見ないうちに頼もしくなったな?」
 「おーッ ワンオンワンでの専属接客とは恐れ入ったッ!! ここは夢の国ではなく夜王の国と見たぜッ!!」
 「蒔ちゃん、鐘ちゃん、からかっちゃダメだよッ」
 「由紀花、こういう時は冷やかしてやるのが礼儀と言うものだ。」
 「そうだ、そうだッ!! 私にはイカしたガイを頼むよ・・・あとドンぺリコールッ!!」

 少年は思う・・・女を三つで「姦しい」・・・昔の人は言い得て妙なことを考えたものだと・・・


―――――――――――――――――――――



 一方こちらは全身タイツの二人組。・・・オチ担当とも言う。

 迎えるのは漆黒の重き扉。
 禁断の枷にて封じられたヘブンズフィール(天へと至る道)である。

 思えば、今この瞬間の為に生まれてきたのかもしれない・・・そんな思いが二人の胸に去来する。
 つまらない錯覚だろう。ただの妄言にすぎない・・・
 しかし、それでもその思いの確かな事を・・・誰に問われるでもなく確信できた。

 もはや言葉は要らない。
 ただ、二人の男は迷い無く・・・その手をドアへとかける。

 ゆっくりと、二人の力で押し開けられる扉・・・

 ―――ギギギ・・・ギィィ

 ・・・軋みを上げながら開かれた扉の向こう。薄暗い中に小さな明かりが見える。

 照明ではない。
 そんなはっきりとした輝きでは無く・・・なにやら揺らめく炎を思わせる陽炎の灯火・・・

 広がるのは大地・・・何処から現れたのか、広大で・・・荒涼とした岩肌が広がる。

 その大地の向こう・・・その彼方に地平線を描く日の出の様に明かりが見えるのだ。
 しかし、その輝きはくすぶる火種の様におぼろげで・・・闇の大地と暗い天井との境界線の様に揺れる。



 ――――――――そして、

 オォーーーオォーーーー

 重低音のコーラスが鳴り響く・・・

 腹の底まで震わせるドラムの打音が否応無く鼓動を早める。

 さらに・・・破滅的なオルガンのメロディーが哀れなる二人を威圧する。

 「「BGM:この世全ての悪ゥゥゥー―――――ッッッッッ!!!!」」

 二人の絶叫は果てしなく広がる暗い胎盤の彼方まで響き渡った。

 そして、そんな二人を・・・

 ――――――――クスクス、おいしそうなサクランボさん♪

 甘い声が歓迎する。

 闇の国の女王は蠱惑的な笑みを浮かべながら二人を誘う。・・・その、身を溶かし尽くす内なる闇へと・・・


 罠だったのだ・・・悔しいほどに見え見えの罠であった。
 しかし、飛び込んだ愚か者はそのことに気づこうとすらしなかった。
 だが、もはや目は覚めた。これ以上無謀は重ねられないと。
 慎二と士郎は瞬間的にアイコンタクトでこの窮状を抜けようと誓い合う。

 第一手は慎二が動いた。

 「は・・・ははっ・・・いやー桜じゃん。お兄ちゃんは君の出し物を見に来たんだけど、素敵なスィーティーは何処かな?」

 慎二は精一杯の爽やかな笑みでなんとか話をごまかそうとするが、桜は可笑しそうに嘲笑(わら)うと・・・

 ――――あら、可笑しな兄さん。もちろんおいしく頂かせてもらいますよ♪
     ・・・たっぷりと


 冷然とした口調で彼の希望を切り捨てた。

 「は・・・はひぃ・・・な、何の事だろ? よ・・・よくわからないな〜」

 既に涙声の慎二は腰を抜かしてへたりこんでいた。
 
 「さ、桜・・・俺達、邪魔みたいだから帰るな」

 士郎は慎重に、決して彼女の琴線には触れぬ様、優しく提案する。
 少女はまた可愛らしく笑い・・・

 ――――ええ、かまいませんよ。

 優しく告げた。

 「「・・・え?」」

 二人の声が綺麗にハモる。
 信じられない事だが、桜は二人の逃亡を許可したのだ。
 それは、蟻地獄がその獲物を解放するのと同様、有り得ない出来事だ。

 しかし、そんな事はどうでもいい。ただ助かると言う事実のみが重要なのだ。
 それは、どれほどの歓喜であっただろうか・・・
 士郎も慎二も助かったのだと心の底から安堵したのだ。
 まるで、遭難者が暗いトンネルから抜け出し、明るい日の光に照らされたかのような満面の笑みを浮かべた二人に・・・

 ――――だって、獲物が逃げるからこそ狩り(ハント)は楽しいでしょう?

 凍てついた宣告が突き付けられる。

 「「イヤァァァァァッッッッッ!! ハンティングスピリッツッッッ!!」」

 叫びながら駆け出した二人。
 しかし空しいかな、同時に影にガボッと捕縛される。

 「ギャワーーッ!! ドメスティックバイオレンス・ファイナルプロセスさようなら僕っっっ!!」
 「熱ッ!?これ熱寒いッ!!・・・しかも、痛ッ!?痛痒いんディスけどッ!?」

 底無し沼に沈む様にあがく二人・・・ 

 さて、もはや万策尽きた。
 少年たちに残されたのは反省でも後悔でもない・・・ただ、絶望という名のピリオドだけである。

 もはやあがく力も尽きたのか、観念した様に沈む中、顔だけが出た状態で慎二は口を開いた。

 「衛宮、知ってるかい?・・・この話ってジャンル:ギャグなんだって」

 青い顔の慎二は精一杯笑顔を崩さずに同朋に問いかける。
 とうとう作中のメタ情報にまで縋るワカメであったが・・・

 「悪い慎二・・・今SS情報が更新された。・・・ジャンル:スプラッターだって・・・」

 もはや涙も枯れた士郎のかすれ声が響く。

 「なんで、たかが創作SSにそんな機能が実装されてるんだよッッッ!!!」

 慎二の叫びは当然の事では在ったが、ネタフリをした彼自身にも責任がある。
 
 「え・・・ちょッ?まて・・・ホントにッ!?・・・夢オチとかじゃないの?」

 あーまたネタフリする。

 「悪い慎二・・・今SS情報が(ry」

 「おいっ!!ちょ・・・まて――――――」

 今だ抗議を続ける慎二であったが、もはやノーフューチャー・・・

 ――――クスクス、いただきます♪

 大空洞には、軽やかな少女の声だけが残っていた・・・

 ――――――――――――――BAD END すごいBAD END


どうも、ご完読ありがとう御座いました。
あとがきでございます。

えーと・・・まずはお付き合い頂きまして申し訳ありませんw

自分で言うのもなんですが、よくもまあこんなくだらねー事を思いついたものだと・・・OTL
まあ、自慰行為みたいなものですから鼻で笑ってやってくださいw

しかも、HP開設の記念すべき1作目がコレですからね・・・
なんか実典good endっぽいし・・・OTL(スエすけは熱烈な士×桜派です)

なんか、俺ってばあとがき書くと愚痴と後悔ばっかですね・・・だが、それが良いってことで^^;

正直な話し、最初は別々に考えていた話ですが、同じシチュエーションで二つも話を作るのはセンス無いんじゃないかと思いまして。(少なくとも自分には上手い話に出来そうに無かったです・・・)
こんな二面オチのエピソードにしたわけです。

あと、アトラクションの制服が妖精服なのはただ単に虎柄ネタをやりたかっただけです(爆
そして、なんだか良い雰囲気だった実典と桜ですが、桜ちゃんは年上好きだと思うんよ・・・よって実典はアウトオブ眼中ッ!!・・・じゃねえかと思うわけですよw

あと、今回は幕張などを意識して作ってみました。好きな人なら下ネタとか気に入っていただけたんじゃ・・・^^;
ちなみに、犯人は登場しなかったノッポのおね―さんと言う裏設定が有ったり・・・結局夢オチw



もし感想などあったらコメントを頂けるとうれしいです

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