「あれ、衛宮も来てたのかよ?」

 そう言ったのは間桐慎二だった。

 「あれ、慎二じゃん?お前も来てたんだ。」

 そう答えたのは衛宮士郎。

 三連休の初日、二人が出会った場所は新興のテーマパーク「マジカルきのこランド」だった。


  チェリーハント顛末記


 「へー、衛宮でもこんな所に遊びに来るんだ?」

 ニヤニヤしながらからかう様に慎二は言うが、士郎はいつもの事なので気にする風も無く聞き流す。

 「そう言う慎二こそ、一人でこんな所に来るのは珍しいんじゃないのか?」

 そう、自称プレイボーイを語る間桐慎二が異性も連れずにレジャーに出るのは稀で、一人となるとなおの事である。

 「ふんッ、別に今日はたまたまフリーだったから来てやっただけだよ。」

 慎二は一転、不機嫌そうに言う。
 もともと相手の予定を気にするような性格をしていない慎二は、休日に遊び友達との予定が合わなくなる事が多い。今日もごたぶんに漏れず、浮いた時間を持て余していたのだ。

 しかし、来てやったと言う表現は少し不自然である。だが、士郎にも心当たりが有り、あぁと納得する。

 「そうか。桜の出し物を見に来たんだな。」

 そう、何を隠そう士郎自身それが目的で来園しているのだ。
 今このテーマパークでは季節限定イベントとしてサクランボ狩りの催し物をやっている。謳い文句は「温室栽培のサクランボを食べ放題ッ!!春の花と一緒に心とお腹をいっぱいにしましょう」である。
 つまり、花見とサクランボ狩りを一緒に出来るコラボレート企画と言うやつである。
 そして、その主催者が後輩の間桐桜であり、士郎はその企画にお客として呼ばれていた。

 そして―――――おそらくは、兄である慎二も・・・

 「そ、そんな訳無いじゃんッ・・・なんだって僕が桜の招待なんか受けなきゃいけないわけ?」

 慎二は悪態をついて分かり易い照れ隠しをする。

 「そっか・・・でも、せっかくだし一緒にサクランボ狩りに行かないか?」

 「な・・・なんでだよ?衛宮、僕の話聞いてた?」

 「聞いた聞いた。でも、暇なんだろ? 一緒に行こうぜ。桜も喜ぶ。」

 「・・・まあ、衛宮がそこまで言うなら行かない事も無いけど・・・暇だし。」

 「よし、じゃあ決まりだなッ」

 士郎は、この素直じゃない友人に内心苦笑をもらしながらも、また気変わりを始めない内にアトラクションに急ぐ事にした。


 「―――ところで衛宮、他の連中も一緒じゃないのか?」

 道すがら慎二はそんな事を尋ねた。
 他の連中とは言わずもがな、衛宮家の面々の事である。

 「あぁ、遠坂たちは先に行ってる。俺だけ洗濯とかあって遅れて来たんだ。」

 「ふーん。衛宮一人に仕事押し付けるなんて・・・もしかして衛宮、家じゃいじめられてるんじゃないの?」

 慎二は意地悪そうに言う。・・・その主用成分が妬みであることは疑い様も無い。

 「うーん、その事については否定しがたいものがあるんだが…今日は遠坂たちにも用事があるってんで俺がかって出たんだ。」

 実に微妙な表情で士郎は話をそらす。…あまり込み入った話は、家主として、男として避けたいところであった。

 「用事って?」

 「あぁ、なんかサクランボ狩りの従業員が足りないとかで桜に手伝いを頼まれたらしい。俺も手伝うって言ったんだけど、募集は女の子だけらしくってさ…」

 「ふぅーん。そう言えば弓道部の子達にも声かけてたなアイツ」

 女の子達が出迎えてくれるサクランボ狩りと花見…実に華やかな響きである。
 桜咲く一面のサクランボ農園に華やぐ少女たち・・・果実の香りと舞い散る花びらの舞台には、夢のような世界が広がるだろう。
 二人はほんの少しの浮ついた気持ちと期待とを胸に抱き、気づけば軽やかな足で歩き出していた。


 道すがら、梅の香が漂うパン屋の前を通ったり、お化け屋敷の前で、オーナーらしきマントの男が従業員らしい紫色の服の少女にダメ出しをしている場面などに出くわしたりしたが、割愛させてもらう。


 そして、しばらく歩けば、まもなくサクランボ狩りのアトラクションが見えてきた。
 桃色の看板に「cherry hunt」とポップ体で描かれている建物がそれである。
 人入りはそこそこの様で、門では家族連れなどを中心に人が出入りしている。
 さすがに列は出来ておらず、待ち時間は0で入園できそうだ。
 しかし、そこで士郎はまた珍しいものを見つけた。

 「あれ、実典じゃん?お前も来てたんだ。」

 本日2度目の言葉である。

 「げッ…」

 とうの実典少年は嫌悪感を隠す事も無く、学校の先輩に振りかえった

 「げって、なんだよ。仮にも先輩に言う挨拶じゃないんじゃない?」

 言ったのは慎二である。自分の礼儀には無頓着だが、人の礼儀には人一倍うるさい男である。

 「あ、間桐先輩…おはようございます。」

 そして、少年の美徳として年功序列、礼儀諸般をないがしろにしない事が挙げられる。…例外1人を除いて…

 「アンタも来てたんですね…衛宮先輩。」

 しかし、この朴訥で分かり易い性格も彼の美徳であると追記しておこう。

 「実典も桜の企画を見に来たのか?」

 士郎は少年のトゲを気にすることも無く話を続ける。

 「ああ…はい、一応弓道部の代表で来ました。あんまり大勢で押しかけても邪魔になるだろうからって…」

 少年はわざわざ事務的な言葉を選んで言うが、その顔は赤みがさして、横を向いている。
 しかし、そんな少年の機微にも気づかず、慎二は肩を透かす。

 「はんっわざわざサクラを雇うなんて、桜にしては気が利いてるじゃん。」

 慎二はやれやれとかぶりを振るが、実典少年は少しむっとした表情になる。

 「別に・・・ほんとに見学に来ただけですよ・・・てか、ギャグつまん無いですね。」

 実典のつっけんどんな返答に、今度は慎二がむっとなった。

 「なにっ・・・別にジョークとか言ったつもり無いんだけど、それどう言う意味?」

 場の空気が悪くなる。慎二は元来の癇癪持ちで、こう言った場合ほとんどの話がこじれてしまう。

 「おいおい、せっかくなんだから喧嘩するなよ。慎二も駄洒落面白かったぞ。」

 仲裁に入った士郎だったが、最後の一言は余計だった。

 「だからっ・・・別に駄洒落なんか言って―――」

 「そうですね。うちの親父も同じようなこと言うし・・・悪く無かったですよ親父ギャグ。」

 慎二の声を遮り、実典少年が前言を撤回する。
 しかし、最後の部分だけいやにアクセントを付けている。・・・どうやら付き合う先輩がよろしくない様で、純朴な少年は人の琴線を刺激するスキルを身に付けてしまったようだ。

 「お前等・・・」

 もはや憤慨やるかた無し。暴走特急K点越えの陸産ワカメと言った風の慎二が爆発しようとしたとき・・・

 「・・・ん?」

 彼はある物を見付け、その動きを止めた。

 その目線の先はサクランボ農園である。
 桃色看板の下には「ようこそ」と銘打たれた花柄のゲートともう一つ、事務入口のような小さい戸口があり、そこの扉に書かれた小さな文字・・・

 ―――――――――「for adult」

 慎二は、それを指差していた。

 「はっ?」

 衛宮士郎は間抜けな声を上げ・・・

 「・・・・・・」

 美綴実典は顔を真っ赤にして背けた。

 「ど・・・どう言う意味だよ、これ?」

 士郎は上ずった声で慎二に聞く。その顔は既に真っ赤である。

 「ぼ・・・僕に聞いたって分かるかよ。でも・・・」

 慎二も何か言いかけて口を閉ざす。

 彼らが何を考えているかは分からない・・・しかし、年頃の男子たちが「チェリーハント」と「従業員は女の子だけ」・・・そして、「成人向け」のキーワードを持って何を妄想したかは想像に難くない。

 そう・・・ここに究極の2択が現れたのだッ!!


 「ど・・・どうするよ衛宮・・・」

 どれくらいの時間がたったのだろう、慎二がそんな事を聞いた。
 もはや先ほどの険悪ムードは無く、まるで戦況を見極めようとする兵(つわもの)のような鋭い眼光で慎二は問うたのだ。・・・ちなみに実典は固まって動かなくなった。
 しかし、聞かれた士郎の方も新手のスタンド攻撃を受けた後の様に身構え、険しい表情である。

 「どうするってッ・・・何かの間違いじゃあないのかッ!?」

 士郎はごく現実的な答えを搾り出すが、その声音はカラカラで説得力に欠ける。振り絞られた怒声も認めがたい現実に抗っているにすぎない。

 「ああ・・・何かの間違いだろう。とてもじゃあないが正気とは思えない出来事だぜ・・・だが、99%の不可能だろうと、残り1%の可能性に賭けなきゃ男じゃねえッ!!」

 漢の顔であった・・・なにやら一子相伝の暗殺拳の伝承者的な雄度を漂わせながら、慎二は一歩を踏み出した。

 「慎二・・・お前・・・」

 士郎はもはや返す言葉を持っていなかった。ただ、かつての強敵(とも)の背中がまぶしく映る。

 もはや慎二は士郎に一瞥もくれる事無く歩みつづける。その目の前に開かれたパンドラの箱に向かい・・・・・・

 止めなくてはならない・・・士郎は強く思う。
 例えその看板が虚偽であったとしても真実であったとしても、衛宮士郎には止めなくてはならない理由がある。

 しかし、もはや慎二は扉の前・・・その背中はあまりにも遠い。

 そして、士郎は思った。
 咎めなくてはならない罪が在る・・・
 正さなくてはならない真実が在る・・・
 しかし、それ以上に士郎は・・・

 ――――――――――その背中を、越えたいと思ったッ

 ジャリッ

 ようやくの一歩だった。しかし、彼の体は間違う事無く前進している。

 「・・・慎二」

 返事は無かった。しかし、扉に手をかけた慎二の動きが一時止まる。
 慎二は何も答えず、ただ何の感情も込めずに振りかえったのみ。
 しかし、その背中が語る言葉を士郎は聞いていた・・・
  
 ――――――――――ついてこれるか

 ただ強く、心を打ちつけたその言葉を・・・

 ジャリッ

 再び強く踏み出す足。士郎の歩みにもはや迷いは無かった。

 「ついてこれるかじゃねェ・・・テメェの方こそついてきやがれッ!!」

 迷わず地を蹴る足・・・向かう扉に希望を込めて――――――ッ


 ・・・ここに一つの選択が終わった。
 もはや投げられた賽・・・この先どのような結末が訪れ様とも覆る事の無い事実としてそれは残る。
 だが勇者二人に後悔は無いだろう。その覚悟の揺るがぬ限り・・・

 桃色の看板の下には、ただ1人実典だけが残された。
 彼は1人、決断に思い悩む。
 当然だろう。どちらを選ぼうと失うものが有る。
 その選択を迫られるには彼はまだ若すぎたのだ。
 そう、若く脆く純粋すぎる・・・
 いっそ、その脳髄を侵す毒々しい誘蛾の蜜に浸れるほどに穢れていたのならばどんなにか楽だったか・・・
 もしくは、その禁断の実に触れるほどの探求の手を持っていたのならばこれほどの苦しみは無かったか・・・
 しかし、彼は持たないのだ・・・悦楽を貪る汚れも、囁きかける蛇も持ち得ぬ者・・・

 しかしッ―――成さねばならぬ事とは何か?

 魁(さきがけ)た先達はもはや見えぬ。誘惑も好奇も彼の者を動かす事あたわず・・・
 だが、それでも心奮わせるこの感情は何かッッッ
 求めている・・・この心は強く・・・
 欲している・・・この手はそれを掴むと力漲る・・・
 その為に失うものは多く、戻らぬものは数多ある・・・しかし―――――

 何を犠牲にしてでも掴みたい物がある。
 全てを投げ打ってでも夢見た郷がある。
 それは・・・誘惑でも好奇でもない別の感情・・・

 「俺は・・・」

 何を求め・・・欲するのか・・・

 「俺は・・・・・・」

 脳裏をよぎるは春に咲く花の名・・・

 「俺はッ―――――――」
 「ねえ、あの子、穂群原の生徒じゃない?」

 実典の叫びを遮って、そんな声が聞こえた。

 っと言うよりも、なにやら実典は注目を浴びている。
 当然だろう。先ほどの二人の奇行とぶつぶつと呟く怪しげな少年・・・まあ、春に花粉と共に町に溢れるアレと同じである。
 しかも、実典は名目上、弓道部の代表と言う事で制服である。

 「学生一枚下さいっ!!」

 いたたまれず、泣く様にして花柄門の中に少年が駆け込んで行ったのは言うまでも無い。




あと書きです

 えーたいへんネタがアレですが、後書きです

 まず、エミヤファンの人ごめんなさいOTL
 イタイッ、イタイッ・・・石を投げないで下さいッ

 オホンッ・・・いや、「ついてこれるか」は僕自身FATEで一番好きなセリフなんですが、カッコイイだけに色々なパロディーが存在しますね。
 それでも、慎二に言わるのはさすがに無理が・・・
 正直、似合わない事この上ないシーンになりました。ギャフンッ
 まあ、だからこそのギャグと言う事でおおめに見てくださいw

 今後もエミやんと慎ちゃんを中心にぶっ壊れたキャラで行きますのでご了承下さいませ。m(--)m

 あと、軽くネタ説明を

 梅臭の漂うパン屋・・・もちヒッスィーです。最近、ヒッスィーのために梅嫌いを克服しようと頑張っているスエすけです。と言うよりも濃い味の克服が先決か・・・う〜む。。。

 マントのオーナーと紫服の少女・・・シオンとパパさんですw
 最近、シンクループやあかやみさんのせいでこの二人親子にしか見えなくなってきましたw
もちろん「ワラ→シオン(ラブ)」「シオン→ワラ(いびり)」でw
 セリフは「ダメだなシオン君ッ!!君はアレか(ry」
 そして、シオンのトチリでワラキアンエクスプレスが止まっているあいだ、向かいの路地裏ドリームシアターが盛況なのも予測済みのシオンであった・・・

 ※マジカルきのこランドに関しては情報ソースが既に無いのでかなり適当です。ごめんなさいm(_ _)m

 「〜じゃあない」・・・最強の異能バトル漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のパロ。この口調になると、キャラは顔が著しく濃くなり、ベッタリとした発汗を始め、重心が何処か分からないポーズや覚悟の表情などの身体的特徴を顕在する。なお、背景などにゴゴゴッやドドドッなどの効果音を伴うのが常。

 「99%の不可(ry」・・・不屈の名作「北斗の拳」のパロディー。これも慎二が言う事自体が壮大なギャグ・・・のつもり。

 「強敵(とも)」・・・同じく北斗パロ。強敵と書いて友と読むその意味は、一度拳を交えた者とは魂が響き合うと言う概念に基づいた聖言。(嘘
 一昔前の「昨日の敵は今日の友」をもじったスラングではあるが、その語意は日本男児の心に強く焼きついている・・・はず。
 北斗パロと言えば、マキジに言いたい事があったんです。
 骨抜きは「100より先は覚えていない」では無く1800戦無敗の方だッ!!群将と羅将を間違えるんじゃあないッ!!・・・そんだけ。(ネタわかんない人ごめん)

以下続きますッ


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