深夜2時…もういい加減客足も無くなって完全に暇な時間だ。
 俺のシフト時間終了が3時だからあと1時間チョイで本日のお勤め終了。
 今日は期限切れのエビカツカレーを確保したから、帰ったら録画のエンタ見てエビカツカレーを食べると言う月に一度有るか無いかのゴージャスタイムだ。
 ピンポーン…来客の音。
 「いらっしゃいませぇ〜…あ、今日はもう無いですよ〜…ありがとございました〜」2時ごろいつも来るお客をいつもの対応で流す。おっさん、いい加減おでんと肉まんはこの時期置いてないって理解して・・・
 ちなみに、置いてないと言うとマズイ。なんでかっつーと、おっさん「何でコンビニなのにおでんと肉まんを置いてないんだッ!!」と、理不尽にキレだすからだ。この場合、売り切れ以外の言葉ではおっさん諦めない。重要。

 さて、現在店内にお客はゼロ。相方の佐藤くん…ん?鈴木くんだったかな?田中かもしれない…は控えで脳トレ中か爆睡中…脳死してしまえ。
 とりあえずあと30分ほどで店長が起きてくるから、それまでに軽い商品チェックと相方の(なにがし)くんを起こさなければいけない。
 …と、作業に取り掛かろうかとチェックシートを確認してマズイ事に気がついた。
 「…しまった。雑誌出してね―じゃん…」
 どうやら12時で上がったヤツが指示しておいた商品を出しを忘れた様だ。チェックシートの中でただ一つ汚れないままの雑誌出しの括弧…
 はいはい、やりますよ…店長が来るまでに終ってなきゃ+残業30分が付いてくるからね…ちなみに業務内容はお説教。時給は出ません…鬱だ死のう…

 いつまでも馬鹿やってられないので作業にかかる。
 カウンター横のダンボールをビーっと開けて滑車に乗せて雑誌コーナーへゴー…っと―――
 ピンポーン…再び来客の音。本日は千客万来。
 「いらっしゃいませぇ〜」
 何かお探しでしょうか?などと無粋な事は言わないのがコンビニの良いところ。俺にとっても(俺みたいな)お客にとってもストレスが少ない。
 作業を続けながら挨拶をして、後はレジに来るまでガチ無視。

 「ねぇ〜志貴、いくらまで買って良いの?」
 「あのな〜。俺はちょっと飲み物買って来るって言っただけ…お前が勝手に付いて来たんだから奢るわけ無いだろ?」

 …どうやらお客サマは年若いカップルであらせられる様です。
 「豆腐の角に頭ぶつけて変死しちまえ…」
 っと、雑誌の結わえを切りながら呟く。

 「ぶぅ〜志貴のケチィ〜…いつも志貴の言う事聞いてあげてるんだからこれくらい良いじゃない」
 「ダメなものはダメッ…お前甘やかすと際限無いんだから。それに、お前の方が金持ちなんだからわざわざ俺に奢らせる必要ないじゃんか。」
 「そう言う問題じゃないのッ!!こういう場所での支払いは男性がするのが正しいエスコートって本に書いてあったもの。」

 はははっ…随分な猫なで声じゃございませんか。馬鹿なヤローだ。馬鹿女に貢いで貢いで貢ぎまくった挙句、捨てられてのたれ死んでしまえッ

 「あのなぁ…俺だって出来れば買ってやりたいけどさ、学生の身分じゃそんなに懐に余裕が持てないんだよ。お前のわがままを一から十まで聞いてたら身が持たないんだから勘弁してくれ…」
 「むぅ〜…わがままじゃないのに」

 すわっ別れちゃうのかッ?捨てられちゃうのかッ!?
 どう見てもつかえねぇサイフ男です。ありがとうございました。

 「そうだッ!!じゃあこの券使う」
 「え?その券って?」
 「うん、志貴に何でも言う事聞かせちゃう券〜ッ!! このあいだ琥珀のなぞなぞゲームに勝ったら貰えたんだぁ」
 「琥珀さん…ゲーム…ってもしかして秋葉が末期的に不機嫌だった日の事か?」
 「うん、それそれ。妹ったら私が勝ったもんだからすごい怒っちゃって大変だったんだから」
 「…えっと、ちなみになぞなぞの内容は?」
 「うん?たしかチチのイヤがるモノはな〜んだって問題。簡単だよね〜答えは…」
 「あ、うん…言わなくていいや」

 なにやら奇妙な会話だ。男は変な罰ゲームに巻き込まれた様だが、随分と神妙な態度である。
 あと、あのなぞなぞは簡単すぎる。答えはパパイヤ(父嫌や)。しかし、問題文は普通なら父さんとか言うだろう?何故にチチなんて言い回しを使ったんだ?…まあ、決定的なパパさえ使わなきゃ父上でもダディでも構わないだろうが…
 って、いかんいかん手が止まっていた。早く片付けなきゃ店長来ちまう。

 「はぁ…わかったよ。買ってやるから好きなの選べよ。」
 「やったぁッ!!…ふ〜ん♪どれにしようかな〜」
 「ん?…なあこの券一回のみって書いてあるけど良いのか?」
 「え、そうだけど?それがどうかした?…あ、いまさらになってやっぱり無しって言うのはダメよ」
 「いや、そうじゃなくってさ。一回しか使えないのに、こんな自分で買えるものなんかに使っちゃって良いのかな?って…」
 「なんで?志貴が買ってくれるものは自分じゃ買えないよ?」
 「そんな事無いだろ?お前の方が金持ちなん…」
 「―――値段の問題じゃないって事。ほら、志貴には結構贈り物とか貰った事あるじゃない?あれ凄く嬉しかったから…こんな風に何の用意も無くただ欲しいって言った物を買ってもらう経験もしたいの…うん、きっとすごく嬉しいと思う。」
 「そっか・・・
  ―――じゃあやめた、これ返す」
 「え?どうして?」
 「奢ってやるよ。それ使ったらなんか交換みたいだろ?それはもっとして欲しい事のために取っとけよ。」
 「…ホントに良いの志貴?」
 「俺が奢りたくなったんだから気にしなくて良いぞ。だいたいコンビニの買い物ぐらいでケチケチなんかしないさ。さっきのはお前の情操教育を考えてただけだよ。」
 「え〜志貴なんか私のこと馬鹿にしてる〜」
 「ああ馬鹿にしてる。良いから早く選べよ。」

 ビリッ…おっといけない。雑誌(商品)を破いちまった。こりゃ弁償モンだ。
 しかし分からない…あいつ等の論理展開はまったく持ってすっぱり、きっぱり、きっちり、しっかり、まったくもって分からねェ……だが一つわかる事がある。

 ―――――テメェらイチャつきたいだけか、このバカップルッ!!

 バッ…っと勢い良く降りかえってしまった。
 とりあえずこのバカップルどもの顔を拝んでおきたかったからだが…

 「―――なにか用?」

 返ってきたのは冷たい目線。お嬢さんずっとこちらを見てらしたの?ってくらいに誤差無く目線を合わせてきやがった。
 つーか外人さんだ。しかもチョー美人。金髪、レッドアイのうえ肌白い・・・うおぉッ顔ちっちぇ・・・足なげぇ・・・何頭身なんだ?
 そんな美人が「見てんじゃないわよ」って感じでこっちを睨んでる。
 もちろん俺にそっちの気なんてある訳無いので悦ぶとかナイし戦々恐々。
 馬鹿〜俺の馬鹿ぁ〜何いきなりメンチきってんだこの馬鹿タレッ!!
 ・・・ご、ごめんなさい・・・じゃないッ!!外人さん不審そうにこっち見てるし・・・え〜と、え〜と・・・

 「・・・ねぇ、聞いてるんだけど?」
 「はイィッ!? あ、えっと・・・何かお探しでしょうか?」

 うまいっ!!何の不審も無い切り返しだ。・・・って、会話を引き延ばしてどうする俺ッ!!
 でも何故か外人さんニコっと笑い・・・

 「い〜え。今お探しのものをお探しの途中だからけっこうよ。」

 上機嫌に去っていった。
 ・・・えっと。助かったのか・・・な?
 向こうでは眼鏡の平凡な日本人男性が彼女を待ってた。

 「何してたんだ?」
 「ん〜?ちょっと店員教育に感心してただけ」
 「ふ〜ん・・・で、何にするんだ?早く決めろよ。」
 「いま決めるとこ〜♪」
 「・・・ってそっちは事務用品の方だぞ。飲食物はこっち。」
 「え、なんで?私べつにお腹空いてないし、喉も渇いてないよ?」
 「へ?じゃあ何が欲しいって言うんだ?」
 「だ・か・らぁ〜それを今から決めるところなの」
 「・・・・・・ん〜本当にお前の思考回路は分らないな」

 眼鏡くんと外人さんは仲睦まじいのか奇天烈なんだかな会話を続けている。
 なんであの外人さん眼鏡のこと気に入ってんだろう?
 ・・・あと、名誉のために断っておくと俺は小心者なんかじゃない。誰だってあんな外人から睨まれたら返答に窮するだろ?控えで寝ている伊藤くん(ヤンキー系)を寝かして置いてやるのだって優しさからだと言いたい。

 まあ、とりあえず作業再開。っと・・・
 ピンポーン・・・三度(みたび)来客、本当に今日は人が多い・・・
 「いらっしゃいま〜ぁぁぁあアッ!!」
 ちょ・・・なんでオオカミっ???・・・あとワニとシカまでいらっしゃるっ!?
 「お・・・お客さん、店内への動物の持ち込みはダメですよっ」
 引き連れてたのは長身のこれまた外人さん(男性)・・・
 「・・・って、あれ? 今ここにオオカミとか居ませんでした?」
 俺が外人さんの足元を指差すと、さっきゾロゾロと店に入って来た野獣どもが影も形も見えなくなっていた。
 え?なに幻覚?もしかしなくても俺イタイ人?・・・ってかこの文明社会で野獣の幻覚とかかなり末期じゃない?昨日の賞味期限一週間切れのカルボナーラにマジックマッシュでも混じってたかしらん?それより、この外人さん(雄)クセェー・・・汗の臭いじゃねェな。泥とか、涎とか・・・そうだ、獣くせェんだッ・・・なに?もしかしてアウトドア系の人?河川敷辺りに生息する全財産持ち歩いてますダンボールハウス万歳(マンセー)の方?
 ・・・いかん思考に取り止めが無い。存外テンパってたようだ。
 おっさん俺をギヌロって効果音がぴったりくる様な目で睨んでる。・・・正直こえェー

 「―――ペットフードは何処にある。」

 オゥムッシュ、ペットフードをお探しでしたか。

 「あ、あちらにございましてございます」

 とりあえず片言の敬語で対応。早く選んで、二度とお越しにならないで下さい・・・とは口が裂けても言えない。
 ところでお客さん、垂れてますよ・・・泥が・・・
 ・・・俺が半泣きになりながらモップとバケツを取り出してヤツの通り跡を掃除していると、なにやらまたバカップルが騒がしくなり始めた。

 「あれ、ネロじゃない?どうしたのこんな所に?」
 「うわぁッ!?ネロ・カオスッ!何しにきやがったッ!!」

 知り合いかよッ

 「む?真祖の姫君か・・・貴様こそこのような所で何を求める物がある。」
 「聞いたのはこっちなんだけど?・・・まあいいか。志貴と買い物に来ただけよ。邪魔しないでね」
 「いや邪魔って言うか・・・本当に何しにきやがったんだよネロ・カオスッ」
 「来店目的だと?たわけめ。神であらずとも我等の来訪は瞭然であろう。
  すなわち、純然たる食料買出しである。」
 「・・・・・・あ、そう」
 「へぇ〜本当にそれだけが目的なんだぁ?」
 「く―――やはり貴様の目を欺くことはできぬか、アルクェイド・ブリュンスタッド。無論だ。食事ならば何処でも取れる。今の我等の目的は狩猟の準備だ。」
 「くっ・・・やっぱり何か企んでやがったのか?」
 「うむ、街で個人的嗜好に沿った模様の三毛を見つけてな・・・捕縛のために撒き餌を必要としていた。」
 「・・・三毛?」
 「なにそれ?それなら貴方お得意の獣海戦術の方が効率的じゃない?」
 「愚かな・・・我等が求望するは模様だと言ったはずだ、ヘタな追跡で毛並みが荒れるようなことがあっては本末転倒の極みと言える。」

 ・・・・・・・・・・・・。

 ピッ
 「お会計1434円です。」
 結局、外人(雄)は高級猫缶とドッグフード(お徳用)と月刊私のワンコを買った。
 「まて、ふれあい商店会員カードがある。」
 野太い声で外人さんは待ったをかけると、もったくっそと分厚いコートの中からカード入れを取り出す。
 バサーッ
 あっちゃーッ、カード入れの中身ぶちまけちゃったよ。
 「塵どもが、スタンプカード一つ識別できんとはッ」
 ・・・なに言ってんのこの人?
 とりあえず拾うの手伝う。・・・中身はクリーニング屋のスタンプカードやペットクリーニングのプラチナカード?などが入っている。良心的なブリーダーさんで結構なことだ・・・
 ちなみにふれあいなんたらって言うのはうちの商店街の町興しイベントの一環らしい。500円ごとのお買い上げで1スタンプもらえて、30スタンプ集めると商店街特製グッズをもらえると言うものだ。て言ってもマグカップやタオルやらにオリジナルキャラクターがプリントされただけの物だが。ちなみにキャラクターは「ゲロッピーくん」(ギリギリなんだかスーパーセーフなんだか・・・とにかく危ない橋もコレだけ幅が広ければ怖くも無いという話)・・・そういえば餌用のお椀なんかもあったな。

 「ありがとうございました〜」
 とりあえずおっさんお帰りです。早く雑誌の陳列を終えねば・・・
 ――――――ピンポーン・・・はいイラッサイマシィー・・・なにコレ?嫌がらせ?
 「いらっしゃいませぇ〜・・・は?」
 今度はご貴族様がご来店あそばされましたことよ。
 「ほう、これがコンビニというものか・・・なるほど雑多な品々が入り乱れている。価格帯に努力が見られないのも利便性を謳うゆえの強みか。ふむ、よく出来たものだな・・・まあ、私の趣味ではないがね、この時間にも利用できるのは好ましい。」
 なにやら独り言の激しい、貴族調のタキシードとマントの外人さんだが、今日の俺は今更そんなものには驚かない。今度こそ完全無視ッ我が道を貫き通さんッ!!
 「ああ、君。」
 え、俺?呼ばれてる?
 「そう君だ。すまないが女性用下着を見繕ってはくれないか?」
 は?下着?持って来い?
 っと言うわけで、ディスカウントショップを根本から理解していない貴族さまのために我が信念貫けず・・・
 
 そんなわけで化粧品コーナー物色中・・・ちなみにサイズとか言われても無理です。当店で扱ってる下着はサイズは一種類しかございません。ああ、麗しのふれあいマートクオリティ・・・
 そうだッ!!せっかくの外人さんの注文だし、ここはあえて下敷きを持っていくのはどうか?以下妄想
「そうそうそうそう、これよこれ。これをこうして、こうやって、こう出して・・・って言うか下敷きやんッ!!」・・・見たいな?ブふぅぅッ!!チョーウケるんですけど、ブふぅぅッ!!
 ・・・はい、つまんないですね。そうですね、ごめんなさい。
 っと言うか、なぜ貴族さまは女性用下着なんぞをお召しでござるのか?

 「あれ?ワラキア、なにやってんの?」

 また知り合いかよッ

 「おや?姫君ではありませんか。今宵も麗しいご尊顔を・・・」
 「テメェッこんな所に何しに―――」
 「ああ、それ以上言わなくていい。君との会話は想定範疇を超えることは無いからな・・・実にツマラナイ。
 あと、人の挨拶を遮るのは不躾だ。以後慎みたまえ。」
 「ぐっ―――このっ」
 「まあまあ志貴、いいじゃない。それよりあなた何しに来たの?私と志貴は買出しなんだけど?」
 「はははっ放蕩娘のお守りですよ。なにやら悪友と夜の街を遊び回っているようなので家にも帰らない。しかたがないから替えの下着を届けようかと思いましてね・・・」
 「・・・・・・なあ、アルクェイド?この世界観ってどんな設定なんだ?」
 「さあ?特に興味無いけど、そんなメタ発言は言うんもんじゃ無いわよ?」
 「・・・わかった。考えない事にする」
 「どうかされましたか?」
 「別に、とにかくあの錬金術師だったらいつもの路地裏でダンボールハウス広げてたから。」
 「おや、これは貴重な情報痛み入ります。では、お連れの方の気分が優れないようなので私はこれで・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 ピッ
 「2050円です」
 お貴族様の買っていった物、「お出かけ用取替え下着セット女性用Mサイズ¥1000」「お出かけ用携帯歯ブラシ(歯磨き粉付き)¥366」「UVカットゥゥゥッサンオイル¥684」
 ・・・娘への愛priceless・・・誰が上手い事を言えとw
 しかし家出娘が街中で野宿か・・・それなんて都心?
 三咲町にも時代の波が押し寄せるのか・・・近年国際色豊かになりましたしね。いや、正確には今夜の俺の頭の中が・・・

 とにかくこれ以上時間は潰せねェ。早く陳列を・・・
 ピンポーン・・・ウゥゥゥォイラッッッシャイマセェェェィィィッッッ!!ちきしょうッ今度は誰だよっ!?

 「あれ?遠野くん奇遇ですね。」

 シスターキターーーー(゚∀゚)ーーーーッ!!
 なに?なんでっ!?どうしてカソック(ッて言うんだっけ?)を着た青髪、ブルーアイの美女が深夜のコンビニなんぞにっ!?
 いや、トップブリーダーの大男や家出娘を探す伯爵閣下が来られるよりはまだ分るか・・・
 って言うか、またこのバカップルの知り合いなのね。類友と言うんじゃろか?

 「あれ?シエル先輩も夜食ですか?」
 「ゲッ・・・シエルまで来たの?」
 「ええ、ちょっと小腹が空いちゃいまして、家に帰るより横着してコンビニで済ましちゃおうって・・・えへへ、恥ずかしいですね///」

 なんだか今度のシスターさんはまともそう。サンドイッチでも買いに来たんだろう。服装なんて気にならないぐらいまともで感動してきた・・・

 「ちょっと〜シエル無視するな〜」
 「さてさて、エビカツカレー♪エビカツカレー♪」

 ん?エビカツカレーかまた豪快な物を食べる気だ。結構な量だから夜食に食ったら太っちゃいますよシスターさん?
 あと、ごめんなさいシスターさん。エビカツカレーは本日1:30を持ちまして賞味期限切れなんで、僕が回収しました。だから・・・

 「あれ?エビカツカレー無いですね?」
 「ホントだ?売り切れちゃったんですね。あきらめて他のにしたら・・・」
 「―――遠野くん?あきらめたらそこで試合終了ですよ?」

 「「はぁ?」」

 なにやら遠野某(なにがし)と疑問符がユニゾンしてしまう未熟な俺。
 そして・・・シスターは非常に好意的(圧力的)な笑顔でつかつかとこちらに歩み寄ってくる。

 「は?・・・え?・・・ひィ」
 「すいません。エビカツカレーはどちらにあるんでしょうか?」

 なにやらシスターの背後に悪魔(デーモン)が見えるのはまたもや幻覚を見ているせいだろうか?

 「え・・・その・・・も、申し訳ありません。エ、エビカツカレーはただいま品切れになりまして、4時の配送までお待ちいただいておりますぅゥゥ」
 「本当ですか?」
 「・・・え?」

 シスターはこんな状況じゃなきゃトキメいてしまうくらいの極上の(凶悪な)笑顔で聞いてくる。

 「本当に無いんですか?」
 「え・・・あの・・・」
 「何故答えないんですか?」
 「いや・・・べつに・・・」
 「―――なにかやましい事でもあるんですか?」

 ・・・俺の痛いところを丹念に問い正して来る。

 「ちょ・・・先輩やめなよッ・・・店員さん困ってるし」
 「そうよシエル大人気な〜い」

 おおぉッ!!遠野くん、僕は君を誤解していたようだ。言ってやって下さい。こんな恥ずかしい行為は止める様にッ!!

 「遠野くんは黙っててください(ニッコリ)」
 「はい、すいません。ごめんなさい・・・」

 謝っちゃったよッ!!

 「で、どうなんですか?(クルリ)」
 「あ・・・そ、それが・・・」

 ヤバイッ俺ヤバイッ・・・もはやここまでッ

 「そうだッ!!確か売れ残りがあったので・・・賞味期限が少し切れてるんですが・・・」
 「―――少しくらい平気です(にっこり)」
 「すぐにお持ちしますっ!!」

 もはや何を隠す必要があろうや・・・とにかく大魔神の怒りを静めるには人身御供以外にはあるまいてッ!!・・・さようなら僕のエビカツカレー(タダ)・・・また会える日まで。

 ピッ
 「・・・680円になります」
 怖いよーシスター怖いよー

 「しかし、先輩なんでそんなにエビカツカレーにこだわったんですか?他にもカレーうどんやカレーパンだってあるのに。」
 「ふふ、こういうコンビニ弁当ってたまに食べたくなる魔力があるんですよ。それに欲しいと思ったものが手に入らないと余計に欲しくなるじゃないですか。」
 「ああ納得・・・」

 右に同じだ遠野くん。

 「さて、私は買うもの買いましたし。遠野くんの買い物を待って一緒に食べましょうか?」
 「え?でも今日はアルクェイドが居るし・・・」
 「そうだそうだ〜帰れシエル〜帰れ眼鏡〜帰れカレー」
 「もう、遠野くんの人の良さにも困ったものです・・・そんな性質(たち)の悪いモノに付き合う必要ないんですよ?」
 「あ、あの〜先輩それくらいにしときません?」
 「―――今の、ちょっと頭にきちゃったなぁ〜」
 「あれ?私は当然の事を言っただけですよ。」
 「先輩もうやめて・・・アルクェイドも落ち着け・・・な?」
 「いい?私は志貴が一緒にいたいって言うから一緒にいるの。シエルこそお呼びじゃないから早く帰ってくれない?」
 「またお呼びじゃないとは聞き捨てなりませんね・・・私には一般人の彼を貴方から守る使命があります。分をわきまえていないのはどちらですか?アルクェイド・ブリュンスタッド・・・」
 「―――志貴、止めないでね。私止まりそうに無いから」
 「無論です。遠野くんは引っ込んじゃって下さい。
  ―――私も押さえききそうに無いですから」

 ウワ―イッお昼の奥様方に大人気のグログロ修羅場ターイム(はぁと)でございますね?
 客観的に聞いていればコレは美女二人に取り合いをされるなんて言う実に()ましい状況なのだが、遠野某の表情を見ていると、なにやら同情すら感じてしまう。

 「ふ、二人ともいい加減にしろよッこんな所でなに考えてるんだ?だいたい女の子がそんな物騒なこと言うもんじゃないぞ」
 「「へぇー・・・だ、そう(です)よシエル(アルクェイド)?」」

 ・・・なにやら世紀末的に嫌な予感がする。具体的に言うと人為的な私有物の損壊・・・つまり店舗破壊の悪寒。
 なにを馬鹿な・・・
 たかだか女性二人のいがみ合いでそんな無差別テロみたいな事起こるわけが・・・
 でも何故でしょう?ワタクシのシックスセンス、激しくエマージェンシー。
 メーデーメーデーこちらホワイトロック1ただちに救援を要請する。誰かたーすーけーてー

 一触即発の緊迫感に包まれてるシスターと金髪さんを必死になだめている遠野くん。頑張れ、地球の未来は君の双肩にかかっている気がするッ
 ん?そこである事に気がついた
 彼女達がいがみ合っているのは入口横の新刊コーナー前。必然、遠野は正面玄関のガラス戸に背を向けているのだが、まさにそこ・・・遠野の真後ろのガラスに映ってるんですよ・・・赤髪の般若面・・・もとい、青筋立てて怒髪天を衝いている少女の霊がッ!!
 遠野ーうしろッうしろッ
 キィィィッッッガタガタッビシビシッ
 ・・・あれ?目の錯覚かな?何も無いのにガラスが悲鳴を上げている。ん?耳の錯覚っておかしな話だ?・・・要するにポルターガイストでFA?
 ガチャーーーンッ
 とうとうガラス戸が砕けた・・・いや、ただ開いただけだった。でも、なんか砕けてもおかしくないくらいの迫力と勢いだったのは確実。

 「ヒィエェェェェッッッあ、秋葉ッ・・・さん!?」
 「「あれ?妹(秋葉さん)」」

 悲鳴を上げるモンク・・・もとい遠野くんと突然の闖入者に緊迫感を緩めるお二方。

 「あら、兄さん?こんな所で会うなんて奇遇ですね?」

 ・・・遠野妹は他の二人をガン無視してお兄様に詰め寄る。ワタクシはもはやレジの陰から事の顛末を見守るのみでござるよ。

 「やあ秋葉、奇遇だね・・・うん、でもお兄ちゃんは夜更かしは良くないと思う・・・」
 「―――あれ?でもおかしいですね?兄さんは確か夕食の後、学校の課題をやるため私とのお茶を辞退して自室に篭った筈ですが?」

 ・・・妹ちゃんマジこえェ・・・遠野兄なんか足が生まれたての小鹿・・・俺?俺は危険を前にしたアルマジロ。つまりレジの下に丸まってます。

 「あ、秋葉落ちついてくれ・・・コレには訳が・・・」
 「本当、兄さんは自室で勉強をしているはずなのに、私の前に何故兄さんが居るのかしら?・・・本当にワカラナイ」
 「いや・・・あの、それが・・・そうだっ!!俺は志貴くんに扮装した亡国潜入スパイって事に・・・ダメ?」

 あちゃ〜選択3番「笑いでごまかす」にしたか。大穴だったんだけどな〜。とりあえず遠野兄、爆死です(笑)

 「ふふっ・・・兄さんったら可笑しな事を言うんですね(ニッコリ)
 ――――――なら、手加減はいりませんね」
 「あわわわ・・・」
 「琥珀ッ」
 「はいはい、ここに〜」

 今度はどこからとも無く割烹着の少女が忍者よろしくドロンと現れた。え?驚かないかって?・・・もう慣れたよ。

 「琥珀、私にも慈悲や温情はあります。ですが遠野家当主として、不誠実な行為と規律を軽視する輩には頑として処罰を与えなくてはなりません。」
 「はい、仰せの通りでございます〜」
 「では、この度の兄さんの行動に関してはどうすれば良いのかしら?」
 「はい、我々には遠野家のご嫡男であらせられる志貴さんに真っ当かつ道義をわきまえた人物に育っていただく為に、然るべき教育(調教)を行う義務があると愚考いたします。よって、志貴さんにはただ今から新装地下王国にお越し頂き、我々の()を受けていただくべきだと進言いたします〜」
 「―――よろしいッならば教育(調教)ですっ」

 あれ?遠野くん真っ白に燃え尽きてる。

 「ちょっと妹?いきなり来てなに言ってるのよ。志貴はいま私と遊んでるんだから邪魔しないの〜」
 「そうですよ秋葉さん。アルクェイドの言葉はただの妄言ですが、私の方もさすがに横槍は看過しかねます。」
 「あら、そう言えば共犯者の方々もおられましたね。
 いいでしょう・・・一人残らず躾直して差し上げますッ!!」
 「―――上等」
 「―――実力行使ですか?かまいませんよ。」

 ・・・・・・・・・しばらくお待ち下さい。



 とりあえずオチにいく前に言っておくッ!
 俺は今、三つ巴の修羅場を目撃した
 い…いや…目撃したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
 あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
 『俺は三人娘の男の奪い合いを見ていたと思ったらいつのまにか妖怪大戦争を見ていた』
 な…何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何を観たのかわからなかった…
 頭がどうにかなりそうだった…幻覚だとかSFXだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ・・・もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

 ・・・とにかく現状を述べよう。
 散乱した商品、倒壊した陳列棚、ズタボロの遠野兄、抉られた床板、剥げ落ちた天井・・・etc
 そしてなによりも、これだけの大惨事が起こりながらも警察も消防も、果ては近隣の方々から控えで寝てる山田(仮名)くんまでやってこないと言う摩訶不思議ッ!!

 「まあ、今日は遠野くんに免じて見逃しましょう・・・」
 「琥珀、服が汚れたわ。車を呼んでちょうだい。」
 「志貴ぃ〜終ったよ〜早く起きてよ〜」

 へんじがない、ただのしかばねのようだ。

 とにかくシスターは片付け?を始めて、倒れた棚とか散乱した商品を整理しだしている。

 お嬢サマは割烹着の少女におぐしを整えてもらうと颯爽と外のリムジンに乗り込み、深夜の街へと消えていった・・・

 金髪さんはアラレちゃんよろしくボロ雑巾と化した遠野くんをつんつんしている。

 なんだろう?
 兵どもが夢の跡・・・とか感慨も沸かないくらいに惨々たる光景に横たわる、この間抜けな空気は?
 気づけば、いつのまにか割烹着の少女はメイド服に着替えてシスターの片付けを手伝ってるし・・・

 「きゃ〜翡翠ちゃんっ!!お姉ちゃん手伝うわッッ!!」

 ・・・いや、別人だった。割烹着の少女・・・シスターが立ち上げた棚を箒で弾き飛ばしながら再登場。
 ちなみに弾かれた棚は横の棚を次々と巻き込みドミノ倒し。最後に倒れたのはデザートコーナーの棚。勢い良く落ちた商品(ケーキ)は案の定ボロ雑巾(遠野くん)の顔面を直撃しましたとさ。

 「てへっ☆またやってしまいましたね(はぁと)」
 「姉さん、清掃作業に支障が出ますので帰ってください。」

 なぜか照れる割烹着(姉)を表情一つ変えずに怒気を放つメイド(妹)が叱る。

 「大丈夫よ翡翠ちゃん。お姉ちゃんがチャッチャと片付けちゃうから」

 割烹着(姉)の言葉とシンクロするように振るわれる箒がチャッチャと棚やら蛍光灯やらを破壊し、刻一刻と店舗のダメージを深刻なものにしている。

 「必要ありません。姉さんには掃除はしないよう言ったはずですが?」
 「もう〜遠慮する必要ないのにぃ〜たった二人の姉妹じゃない」

 踏んでるッ遠野(兄)を踏んでるッ!!
 金髪さんも止めてあげてッ・・・あ、猫ボールにじゃれついてる・・・

 「・・・とにかく、姉さんが帰らないなら私も実力行使を取らせてもらいます。」
 「へ?」

 割烹着(姉)が疑問符を浮かべると同時・・・
 ―――ビシッ・・・っとメイド(妹)の人差し指が割烹着(姉)の鼻先に突き付けられ・・・

 「ごーほ〜む」

 ゆびがぐ〜るぐ〜る回りだした。
 すると何故か・・・

 「きゃ〜翡翠ちゃん怒ってるぅぅぅ」

 割烹着(姉)、突然レレのおじさん走りで前傾後退(ムーンウォーク)・・・

 「昨日、明日よ永遠にぃ〜それでは皆さんごきげんよ〜」

 笑顔の割烹着さんは夜の町へとバックスライドで消えていく。・・・なんて言うか、多芸な人だな〜
 とにもかくにもシスターとメイドの修繕作業を見守る午前2時25分。奇跡的な事に壁の時計は戦災から免れていた。
 正直なところ、雑誌の棚出しが終ってないだとか店長がもうそろそろ起きてくるだとかどうでもいい話。
 今はとにかくこの悪夢よ早く覚めろと念じるばかりでございます。
 しかし、あぁ無情・・・なんと言う事でしょう。シスター思い出したように顔を上げて言いました。

 「ああ、そう言えば目撃者の方もよろしくお願いしますね。」
 「かしこまりましたシエルさま」

 ニッコリと朗らかにシスター。ペコリと恭しくメイド。
 そしてガクガクと慄く俺。
 ・・・あ、やばい()られる・・・
 カツカツと歩くメイド。ブルブルと震える僕。
 マジホラーなんですけどッ!!止めて来ないで近寄らないでぇ〜
 カツカツカツカツ・・・足音止まらず一定間隔。確実無情なこの状況。とにかくレジ下で丸まって念仏を唱える以外に道は無し・・・
 あぁ神さま仏さま、今度からは真面目に働くのでこの悪夢を早くどっかにやって下さいィィ
   ・・・カツン。足音が止まった・・・

 「失礼いたします」

 聞こえる声は真上・・・
 どんだけっ!?マジどんだけっ!?むっちゃ切実にホラーなんですけどッ!!
 そして・・・・・・見上げた俺が見たものは・・・

 「貴方をお忘れです」

 ぐ〜るぐ〜るとゆびが回る。ぐ〜るぐ〜ると視界が回る。ぐ〜るぐ〜ると自分が回る。ぐ〜るぐ〜ると世界が回る。ぐ〜るぐ〜ると・・・・・・



 「――――――くん?」

 ん?誰かの声がする。

 「―――くん。おいッ起きろッ!!」

 ガンッ・・・頭が叩かれた・・・ってぇ〜。

 「あ、店長。おはようございます。」
 「おはようございますじゃないッ!!なにを仕事中に寝とるんだ馬鹿モンッ!!」

 起きてみればいつもの風景・・・じゃない。なぜかバイト先のコンビニのカウンター・・・つまり俺は仕事中に居眠りでFA?

 「〜〜〜〜〜っ!?す、すいませんッ起きてましたッ!!」
 「顔にヨダレと寝跡を付けて起きてましたじゃないッ!!」

 またぶたれた・・・
 う〜ん、なぜ俺は居眠りなんぞ・・・思い出そうとしても記憶がごっそり抜け落ちて・・・いや、塗りつぶされて思い出せない。・・・うん、ワスレルカ。

 「だいたいお前は―――」

 店長お怒りモード継続中。ワタクシ反省モード起動中。
 はい、すいません。はい、もうしわけありません・・・を繰り返すだけの擬装は結構役立つ。
 しっかし、なんか店内がやたらピカピカと綺麗だな・・・まあどうでもいいけど。
 とにかくこの調子じゃ説教時間は日本記録を更新しそうだし。俺も今回はさすがに反省がいるな〜
 ん?なぜか視界のはしにはダンボールから出されたまま陳列されていない雑誌の山。こりゃワールドレコードも狙えるな・・・
 店長の説教もしだいに日々の営業態度やレジ回りの細々とした小言にシフトしてきたし、観戦するならポップコーンとコーラが要りますよお客さん。

 「ほら〜またお客さんにレシート渡し忘れてる。」

 店長、ズイっとレジに残ったままのレシートを俺の鼻先に突き付ける。
 なになに?「燃焼系 七夜式¥158」「占い猫シリーズ 届けこの想い 恋愛成就ペンダント(使い捨て)¥580」・・・なんだこりゃ?
 え?問題点はそこじゃない?わぁ〜てますよ。今度から気おつけます。渡しゃいんでしょ?レシート。
 しっかし、こんな買い物するなんてどこのバカップルだよ・・・ん?恋愛成就じゃカップルの買い物じゃないだろう?レシートに客の人数がかかれてるわけでも無し・・・なぜにカップルを連想した自分?

 「コラ、なによそ見してるんだッ!!」
 「はいっ・・・す、すいませんッ」

 ガミガミ店長、ペコペコ自分。
 あー今日は散々な1日だった・・・
 しかし、あの身に覚えの無いレシートは本当になんだったんだろう?


 エピローグ

 「こんなところにも24時間営業の雑貨店があるとは・・・個人経営店のため見落としていたようです。」

 そう言いながら紫の服の少女は店内へと踏み入った。

 「やったねシオン。ここなら売れ残りのお弁当とか貰えそうだね。」

 隣には嬉しそうにはしゃぐ制服の少女もいる。
 彼女達が最大欲求(食欲)を最小限に押さえる為に2次的欲求(栄養補給)を満たそうと奔走しているのは見る人によっては涙を誘う光景だろう。

 「ええ、もちろんですサツキ。このような地域密着型の店舗では高確率で鮮度品の余剰在庫を低価格で払い落とす傾向があります。」

 いわゆる残飯あさりである・・・

 果たして彼女達の要求は受け入れられる事も無く、代わりに家出人として警察に連絡されかけて逃げ出したと言う寓話(お約束)



あと書きです

 インドア派のダメ店員による愉快な仲間たちの観察記録・・・ご完読ありがとうございました。
 お楽しみいただけたでしょうか?
 志貴とアルクのコンビニ小話を書こうと思って書き出したら教授や監督を混ぜたくなって、なら視点も意外性を突いたのにしてみては?という試みから生まれたSSでございます。
 正直、今まで描いた話の中で一番書きやすかったんですが・・・その分、いつにも増して読み辛い作品になってしまいましたOTZ
 あと、スエすけはコンビニでバイトしたこと無いのでまた聞きで書きました。間違ってたりしたらごめんなさい^^;

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